2006年04月03日

Leave Me Alone

「しばしの悲しみの次に訪れる小さな春」 by Trashcan Sinatras('04)


トラッシュキャン・シナトラズは昨年春に久方ぶりに来日してくれた。
そのライブの「何でもない良さ」というのは改めて実感する事が出来た。
別段演奏上手なわけでも無いし、
観客を煽るようなパフォーマンスがあるわけでもない。

バンドのメンバーもフロントマンであるフランシス・リーダーこそ
洒落たジャケットに身を包み、インテリ風にまとめていて
ジェントルマンな感じがしたものの、他の面子と言えば
ほつれたジーンズを平気ではいていたり、
本当によれたTシャツを着ていたり、日本のファンの
暖かい歓迎に感極まり、観客側を向いて記念写真を撮ったりと、
少なからずスコットランドからわざわざ来日した人たちとは
とても思えないような良い意味で「ハートウォーミング」なライブだった。

そして彼らの基本的な楽曲の良さ、それを真摯に伝えようとする姿勢、
決してステージでも失われないキラキラとした瑞々しいサウンド。
僕にとって決して忘れる事の出来ない素敵なライブの一つになった。

今夏フジロック・フェスティバルでの早い再来日が決まったが、
彼らのようなバンドこそフェスではなく余り大きくないハコでじっくりと
耳を澄まして聴いてあげたい気もする。

彼らの現在のところ最新作にあたる『ウェイトリフティング』は
紆余曲折を経て2004年に発売された。
日本では2000年前後にサニーデイ・サービスの曽我部の
尽力もありランディ・ニューマンのカバーであるマキシ・シングル
『スノウ』をリリースしたが、オリジナル・アルバムは96年の
『ハッピー・ポケット』以来8年ぶりのリリースだったのだ。



このアルバムのレヴューについては以前某所のレヴュー欄で
かなりしっかりとしたものを書いたので細かくは書かないが、
とにかくこれだけのブランクが結果として本当に歯がゆいくらいの
素晴らしいアルバムで、溜飲を下げるどころか、
「これだけのクオリティを保っているなら何故こんなに消息不明になっていたの?」
と強く思わされた。

どうもトラキャンは3rdアルバム『ハッピー・ポケット』以降、
本国でのセールスの低さから契約も失い、
活動を続けるのも困難な財政状況に陥っていたようである。
実際にバンドしてのマネジメント面では破産してしまったようで、
各々違う職について食いつないでいた時期もあったそうである。

それでありながら『ウェイトリフティング』は力強く、志の高い歌が並んでいる。
最初から最後まで煌くような美しさで魅了する「オール・ザ・ダーク・ホーセズ」、
今まで以上に技巧的な展開で聴いてる方を引き込む「フリー・タイム」
掛け合いのようなヴォーカルで哲学的な歌詞を歌いあい、
その掛け合いの妙でサビも聴かせる「トラブル・スリーピング」や
不穏なテンション・コードを使ってもいとも簡単に
メロディアスに聴かせる「ウェイトリフティング」など・・・。

ブログを書くために久々に聴き返したが、やはりこのアルバムは素晴らしい。
セールスやショービズとは縁遠いかも知れないが、
音楽の本質とはこういうものだと僕は思う。

彼らの歌詞は柔らかいメロディの割にかなり難解で、
日本人である自分には決して全てが理解できるものではない。
訳詞だけでは伝わらないニュアンスもあるので、自分でも英詩を読んで
その文節の意味がわからなければ調べてみたりしたが、
それでも何を歌っているのかわからないときが多い。

アルバム『ウェイトリフティング』は決して不遇をネガティブに歌ったり、
例えたりはしてないのだが、その中で一つ、
その不遇を恋愛に例えたのではないだろうか、と勝手に思う曲がある。
それが「リーヴ・ミー・アローン」だ。この曲の初期ヴァージョンは
既に2000年のシングル『スノウ』のB面で披露されていた。
言わばこのアルバム・ヴァージョンは「リメイク」と言えるだろうか。

歌詞本体が僕が推測するように不遇を恋愛に例えたものなのか、
それとも実際に恋愛観なのかは僕の英語力では解り様も無いが、
この曲の持つ歌詞は人間が誰でも思い、悩む普遍性も感じたりする。

この曲はタイトルを捉えれば「リーヴ・ミー・アローン」、
つまり放っておいてくれと言う事だ。
確かにサビでもこの部分は連呼されるのだが、
それを包むほかの部分の歌詞は必ずしもそれを肯定するものではない。
それは人間の持つ心の本質でもあり、誰しもが
そういう気持ちに直面し、時には対峙していくものなんだと僕は思う。


「Leave Me Alone」
words and music by The Trashcan Sinatras (抜粋)



難しい事 それは共に従うこと

それは全てが噛み合わない事

それは僕が悲しみの真意に気付いていない事

難しい事 それ以上に耐え難いこと

それはさよなら


トラッシュキャン・シナトラズは歌詞もメロディもヴォーカルも
非常に洗練されたバンドだ。別に都会的ではないのだけど、
彼らの音楽には土の香りより青々として水分を含んだ
草原が広がるような爽快さがある。そしてそこに潜むかすかな闇。
posted by cafebleu at 12:44| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | Trashcan Sinatras | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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