2012年08月26日

Mother Nature Calls(90年代UKポップ特集その2)

高野寛さんのライブも有ったので先に彼を取り上げたけど
元々はUKポップ特集用に結構前に用意していたもの。

また、ぼちぼちこちらのUKポップシリーズも続けていく、予定。

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"デビュー作ばかりが評価されるけど、楽曲的にはこれがベスト"

『Mother Nature Calls』('96) Cast

さて、スポーツ祭典なのに音楽とコメディ推しだったロンドン五輪は
終わったけど、僕のUKへの想いは別段昔から変化はないので続けよう。

今回は90年代UKでは比較的有名なキャストで。

恐らく当時のUKポップブームの中でも5指、もしくは10指には確実に入る
実績と人気を残したバンドと言って良いだろう。

何となくアイドル性は高くなかったので日本では余り大きな話題には成らなかったけど。

キャストはブリット・ポップ・ブームの最中にデビューしたバンドだし
確かにデビュー作の「オールライト」なんかはあの時代の空気を感じるけど
ポップというよりはロック的な側面も有って、実際デビュー作『オール・チェンジ』でも
「サンドストーム」のようなロックな曲も有る。1stの後のシングル「フライング」では
当時ポール・ウェラーやオーシャン・カラー・シーン、そしてプライマル・スクリームを
プロデュースしていたタイトな音作りを得意とするブレンダン・リンチを起用したりしている。

そういう意味ではオーシャン未満、オアシスよりはロックテイストな位置に居るのかも
知れないが、何よりも彼らをポップたらしめていたのは、伝説のバンドとも言える
ラーズのベーシストだった、ジョン・パワーの存在ではないだろうか。

ラーズは今では有名な話だが、90年代初頭にたった一枚のアルバムを残して分解状態に。
このアルバムこそが後のブリット・ポップにも通じるサウンドだったりするのだが
その中でも「ゼア・シー・ゴーズ」のストイックなまでの美しさは正直文章では表現し難い
物が有る。楽曲としては60年代的なギターのイントロに導かれて始まるのだが、その内容
自体はシンプルだけど眩いほど美しいメロディに引き込まれる。

このキラキラとして、何処か芯は太そうなのに繊細で砕けてしまいそうな世界観というのは
主にリー・メイヴァースに依るものなのかも知れないが、
部分的にキャストにも引き継がれることになる。

そういう前歴も有ってデビューしたキャストだったので、ブリット・ポップ狂想曲の
最中でも、ある意味完成しているというか、スーパーグラスやメンズウェアのような
若くて青臭いけど、それこそが良さでもあり、ハイプで有っても良しとするような
(スーパーグラスはハイプではなかったけど)
若手とは若干違う印象ではあった。アルバム『オール・チェンジ』は若々しくて
ラフな部分も有るし、「オールライト」辺りは何処か初期フーのようなキラキラと
したものは感じるけど、それはある程度計算されていたのではないかと思う。
例えばニューウェイブの最中にデビューしたポリスなんかがそうだったように。

そんな風にブームが吹き荒れる最中にデビューしたキャストで有ったが
着実に、奇をてらわず道を進むことになる。

既にデビュー・アルバム後には模索が始まり、ポップバンドと言われることからの
脱却を図ったのか、先述したブレンダン・リンチをプロデューサーに迎えシングル
「フライング」をリリースする。


「Flying」('95) Cast

この曲は個人的にはキャストの持つキラキラとして少し高揚感のあるサウンドに
対してブレンダン・リンチのカラーは余り強く出てない気がする。
せいぜい分離のはっきりとしたドラムやギターのサウンド程度が彼らしいところだろう。

最もそれでも悪い組み合わせではないという気がするし、UKチャートでも4位と
彼らのシングルで最大のヒットになるのだが、確かに互いに探りあいのような
アレンジにも聴こえ、何となく手の内を出し合えなかったのか
このコラボはシングル一作限りになってしまう。

とは言え、この時期ジョン・パワーやキャストが、単純に若々しくてポップで
勢い一発的な雰囲気を続けていたら後が無いというのは感じていたのだろう。
そういう試行錯誤の中で2ndアルバムの制作は行われていくことになる。

結局プロデューサーはデビュー作と同じジョン・レッキーとなったが
程なく完成した『マザー・ネイチャー・コール』は音や楽曲に広がりの出た
彼らの成熟を捉えた好作だと思う。



これも先に書いたが、キャストといえばほとんどのレビューで
"1stだけ聴けば十分"
みたいな評価を目にする。確かに1stに有る瑞々しさとそこそこの完成度の
バランスは中々かも知れないが、僕にはこの1st、若干食い足りない感じもする。

特にブリット・ポップと言われる割には余りメロディアスな楽曲が少なく
そういう意味でもブラーやドッジー、もしくはオアシスのような部分部分のメロディに
はっとさせられる部分は余り感じないというのが感想である。

ブリット・ポップの定義なんて無いに等しいし、オーシャン・カラー・シーンのように
明らかにポップと言うよりは、70年代ロックにルーツを求めるようなサウンドですら
当時は一絡げだったので、陳腐な事かもしれないけど、ポップと呼ばれるようなムーヴメント
ならば、もう少しアレンジやメロディに力を割いているバンドだって居てもいいと思うし
そういうのが少なかったからブームの終焉はあっけなく訪れたのだろうなとは思う。

上記のような意味で2ndは良く練られていて、1stから続くようなキラキラとした
ポップ・ロックは健在だし、2ndからのファースト・カット「フリー・ミー」なんかは
ブレンダン・リンチ辺りとやろうとしていたロック路線で、次に続いた「リブ・ザ・ドリーム」
なんかは英国的な伝統を感じるサイケなフォーク色も漂うメランコリックなナンバーだった。

詳しくは曲別に紹介するけど、こんな風に新進気鋭ではないジョン・パワー率いるキャストが
本来持つポテンシャルを発揮し始めたのがこの2ndアルバム『マザー・ネイチャー・コール』
ではなかったかと、そう思うのである。アルバムチャートでは3位まで上昇し、彼らの最盛期を
捉えた一枚となった。

ここにはポップが本来持つバラエティも出てきているし、それを実現するための楽曲や
アレンジも練られている。アルバム単位で聴けるミュージシャンが少ないのがこのブームの
玉に瑕なところなのだけど、このアルバムは時代を超える名作とまでは言えないかもしれないけど
僕は今でもお気に入りで、たまに耳にしているのである。

アルバムは先行シングルとなった彼らにしてはロッキンな「フリー・ミー」で
パワフルにスタートする。


「Free Me」(Live)

派手なサビやリフは無いけど高揚するようなコード展開を持つ佳曲で、
中間のブリッジ部分も王道的だけど悪くない。キラキラ感はここでは
少し減って大人っぽく仕上げているけど、アルバムは多彩に進んで行く。

3曲目「リブ・ザ・ドリーム」はこのアルバムのハイライトの一つで
秀逸なサイケ・フォーク・バラードと言った趣向である。
何となく英国ならではのコード展開と、そこに乗るメロディやアレンジは
キラキラとしており、味わいのある曲である。アルバムからの3rdシングルにもなり
7位まで上がったついでに、ロングセラーとなってBeatUKでもよく流れていたのを思い出す。


「Live The Dream」('96)

5曲目は軽快なロック・リフから始まる曲で、「フリー・ミー」とも共通点が有るが
中々切れ味も良く、こういう部分でも1stより成熟してきているのを感じる。

6曲目「アイム・ソー・ロンリー」はこのアルバムで最も美しいメロディをもつ名曲で
恐らくキャストをそれなりに聴いていたリスナーだったら、この曲を上位にランキング
する人が多いのではないだろうか。個人的にはキャストの楽曲ではこれがベストである。

ストレートでメロディアスなバラードだが、キャスト特有のキラキラとした世界観が
最も発揮されている一曲で、それはもう少し踏み込んで言うならば、ラーズの世界の
続きのようにも思える。名曲度では「ゼア・シー・ゴーズ」には及ばないかもしれないけど
一聴で引き込まれる美しい展開とアレンジ、メロディはポップ・ファンには必聴で
この曲はもっと評価されても良いのではないかと、そんな風に感じている。


「I'm So Lonely」('96)

9曲目「ガイディング・スター」は1stのイメージを引き継ぐポップ・ナンバーで
何てこと無い感じなのだが、1stよりもメロディは洗練されていて、何処までも
ポップなメロディが貫く元気いっぱいのパワーポップだ。僕は大好きである。
アルバムからの2ndシングルとしてカットされ、ベスト10ヒットを記録している。


「Guiding Star」('96)

※本当はこういうプロモがいいのだけど、余り上がってない。。

アルバムとしてはこんな感じで、他にも良い曲が有るのだが、強いて言うならば
「フリー・ミー」路線のロック、3拍子の少し変わった曲、1stから続くポップ路線
フォーキーかつメランコリックなバラードが数曲づつ配されているという印象で
その中でも紹介した辺りが抜けている感じなので、全体としては類似感もある曲も
有るのだけど、それでもキャストなりにブリット・ポップの横風を受けながら
それを少しでも良い物に前進させていこうとする意志は感じ取れる作品で
当時も今ももっと評価されて良いのではというのは僕の感想だけど、過小評価
されている感じもする。特に日本ではキャストの人気って低かったような気が。

作品としてはここまでが人気のピークで、1999年に発表された『マジック・アワー』までは
ベスト10ヒットが続くものの(全英6位)、2001年の『ビート・ルート』では78位と大失敗し
(これは単にブームの終焉だけでなく、彼が何を間違ったのかヘヴィでダークなサウンドに
向かってコアなファンですら匙を投げてしまったという側面も有るだろう)
失意のままアルバム・リリースに伴う全英ツアーをキャンセルしてそのまま解散し
呆気無く終焉を迎えてしまった。

良くも悪くも突き抜けたものやバキッとしたコンセプトが無いバンドではあるので
オーシャン・カラー・シーンのようにブームが去っても一定の人気を保つことが
出来なかったのかもしれない。ジョン・パワーのヴォーカルも好みが分かれるだろう。

でも、演奏もまとまっていたし良いバンドだったと思う。
但しドッジーやオーシャンのように判官贔屓なまでの思い入れは無いかな。
posted by cafebleu at 01:00| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | Cast | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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