2013年12月27日

Steve Cradock's Solo Works

"モダニストらしいコレクター的世界と妻との共同作業によるもう一つの世界"


さて、この辺りで一旦オーシャン・カラー・シーンのメンバーによる
ソロワークスについても触れておこうかと思う。

ヴォーカルのサイモン・ファウラーに関しては少し前に取り上げており
それが実質の初ソロ作品だったのでそちらを見てほしい。

今回はオーシャン・カラー・シーンのサイケ、モッズ的世界観、つまり
オーシャン・カラー・シーンというバンド自体のイメージ的基礎を担っている
スティーヴ・クラドックのソロ作品集についてまとめて取り上げようと思う。

スティーヴ・クラドックはある意味昔からオーシャン・カラー・シーンと平行して
ソロ活動を行っていると言える。その中で最も有名なのは作品ではなく
ポール・ウェラーのバンド・ギタリストとしてだろう。ライブだけでなくウェラーの
作品の多く(殆どと言って良い)で彼はギタリストとして参加している。

また、99年にはジャムのトリビュート・アルバムに関わり、演奏を全て自らがまかなって
ヴォーカルにリアム・ギャラガーを参加させて「カーネーション」の録音なんかもしている。
(このテイクのオリジナル・バージョンでスティーヴが歌うテイクは『ワン・フロム・ザ・モダン』のボーナスに収録されている)

だが、ソロ・アルバムとなると実は2008年まで発表されていなかった。
ちょうどこの頃オーシャン・カラー・シーンは『オン・ザ・レイライン』を
出した後で、これも前回書いたけどメジャーレーベルでの契約が切れて
自らで立ち上げたインディ・レーベル"モーズリー・ショールズ・レコード"から
『オン・ザ・レイライン』も発売されたのである。

そういう意味では不遇な時期と言えることも出来るけど、逆にアルバム制作や各々の
活動に関わる制限などは無くなっただろうし、例えレーベルの契約を一時的に
失ったとしても、そこまでの蓄積や長い活動における固定ファン層は確保しているわけで
比較的自由な活動が出来る時期だったのではないだろうか。

そして、自らのレーベルである"モーズリー・ショールズ・レコード"を盛り上げるためにも
ソロ・アルバムを作ろうという意志があったかもしれない。

結果リリースされたのが『Kundalini Target』というアルバムで、これがスティーヴの
初ソロ作であった。2008年リリースで、『オン・ザ・レイライン』の翌年である。


『Kundalini Target』 Steve Cradock

この作品はジャケットやタイトルからも解る通りスティーヴのモッズ的、コレクター的
側面を全面に出した作品で、内容も60年代のモッズ、サイケ的なサウンドに対するオマージュ
と言うことが出来ると思う。但しアクはそれほど強くないのが彼らしい。

1曲目の「サムシング・ベター」からコレクター魂全開で、この曲はマリアンヌ・フェイスフル
が歌ったゲリー・ゴーフィンとバリー・マンによる作品。アレンジもそこに近い。


「Something Better」 Marianne Faithfull
 ※しかし、この頃のマリアンヌ・フェイスフルはほんとうに可愛い

ポール・ウェラーがゲスト・ヴォーカルで参加している「The Apple」は60年代の
マイナー・バラードをモチーフしながらウェラーの影響も強く感じる佳曲。


「The Apple」(live at Coventry 6th July 2013) Steve Cradock

美しいギターとピアノのリフから始まる「On And On」も素晴らしい楽曲だが
もう少しスティーヴのヴォーカルの精度を高めてくれれば良いというか、こういう
曲ならサイモン・ファウラーに歌わせても良いのでは?と思ってしまう。

他にもシャッフルで愛らしいソフト・サイケ調の「The Clothes They Stood Up In」や
アコースティック・ロックでオーシャンでもやれそうな「Beware Of Falling Rocks」など
全体的に粒ぞろいで個人的には3枚のソロ・アルバムの中では最もモッドでコレクターで
その割にバランス感覚が良くも悪くも取れているこの作品が好みである。

箱庭感も有るのは、ギター、ピアノ、ベースそしてドラムと殆どの楽器を自分一人で
演奏しているからか。でもそれが好事家っぽくて悪く無いと思う。

心を揺さぶるような名曲級は無いけどオーシャン・カラー・シーンのギタリストとして
こういう作品をリリースするのは有りだと思うしルーツもよりつまびらかになっている。


そして、オーシャン・カラー・シーンとしては久々の名作級だった『サタデー』の後
2011年にリリースされたのがソロ2作目である『Peace City West』である。


『Peace City West』 Steve Cradock
このアルバムから彼の奥さんであり、ミュージシャンでもあるサリー・クラドックとの
共作色が強くなっていき、それが現在の作品まで続いている感じである。

ドラムもツアーバンドのメンバーが担当してるし、他のミュージシャンの参加も多く
こちらの方がバンドっぽくてある意味開放的なサウンドが聴ける。
全体としては内省的な部分も強かった前作に対して本作はサイケ・ロック感が強い。
またサリーの趣向としてトラッド色も出てきており、ちょっとフェアポート・コンヴェンション
とかペンタングルを思わせるような曲も入っている。

全体的にこの作品も悪くないのだけど、ちょっと焦点がぼけてるような気がして
余り印象には残らない作品というのが聴いた当初の感想だったが、改めて聴いてみると
前作が60年代やモッズのコレクターであるスティーヴのルーツを描いたアルバムだと
したら、今作は現在のスティーヴの世界を表現したアルバムだと言える。
前作の世界観を残しつつも、よりアコースティックなサウンドの聴かせ方やアレンジに
趣向を凝らし、前述のようにトラッド・ロックへの傾倒も聴かれる大人のロックと言った趣である。

ヴォーカルやコーラスに妻サリーのフューチャーが高くなり、楽曲も共作している。
トラッド・ロックへの影響はサリーの存在が大きいのではないだろうか。

1曲目を飾る「Last Days of the Old World」はきらびやかなポップ・ロック・ナンバーで
前作よりリズムを強調した感じのアレンジが耳に留まる。


「Last Days of the Old World」 Steve Cradock

「The Pleasure Seekers」はちょっとトラフィックと言うかトラッド的なメロディから
サイケな展開を見せる今作を象徴する楽曲で、この手のサイケ路線とトラッドへの影響が
散見されている。

「Finally Found My Way Back Home」はP.Pアーノルドとの共作曲だ。
P.Pアーノルドとの縁はオーシャン・カラー・シーンの「トラベラーズ・チューン」
「イッツ・ア・ビューティフル・シング」が間違いなく契機になっているだろうが
実はこの共演の少し後の98年にスティーヴ・クラドック・プロデュースでP.Pアーノルドは
シングル『ディファレント・ドラム』をリリースしておりスティーヴとの縁は深い。


「Different Drum」 P.P Arnold
(TFI Friday June 1998 with Steve from OCS, Andy, Lee, Dave and Tim)
※スティーヴはピアノで勿論参加

「Kites Rise Up Against The Wind」はラーガ・ロック的なアプローチだが
かなりサイケで凝ったサウンドがコラージュのように散りばめられていて
スティーヴの趣向の一つであるサイケ感が良く出ている。

サリーとの共作である「Steppin Aside」はアルバム中でも出色の出来で
いきなりイントロのアコギ・リフの聴かせ方から痺れるようなハードなトラッド・ロック
風味である。サリーのミステリアスなヴォーカルも悪くない。

「Little Girl」も美しいアコースティックのイントロからスイートなメロディと
アレンジが印象的な楽曲で、彼のパーソナルな部分をあぶり出してる感じである。

「I Man」はサイケ時代のスモール・フェイセズやヤードバーズを思わせる
レトロなサイケパートとロックな展開で聴かせるモッド・ロック。
オーシャン・カラー・シーン本体以上にレトロな感触である。


「I Man」 Steve Cradock

リリース時期が日本では東日本大震災と重なった時期だったせいか、僕も仕事とかで
悠長に音楽をじっくり聴いているような気持ちになれなかった気もするので、それが
より印象を弱くさせているのかもしれないけど、こうして聴き返してみると『サタデー』
で得た成果をここにも持ち込んでいるところが有り、派手さは無いけど中々良い作品だと
思う。

スティーヴのソロ作品で常に思うのが、例えば本作も結構ハードなサイケが入っていたり
するのだけど、天性のバランス感覚からか、良い意味でのチープさとか、アングラ感とかは
余り無く、音楽への愛情やルーツを追う姿勢は強く感じるのだけど、それがさらりと
している所である。それが良さでも有り食い足りなさでも有るような気がする。

だからどの作品も初見のインパクトは強くないので最初は印象が弱いのだけど、時間が経って
改めて聴いてみると彼らしいブレのない音楽への愛情が詰まった作品だと感じるのである。
つまり、これがブレイクするような物ではないのかもしれないけど、良質な仕事はしている
ということ。

最後に現在の最新作で、実際のリリースもオーシャン・カラー・シーン関連の作品で最も
新しいのが今年9月に発売された3rdアルバム『Travel Wild - Travel Free』である。


『Travel Wild - Travel Free』 Steve Cradock

いよいよアルバム・ジャケットまでまるでヴァン・モリソンの『テュペロ・ハニー』の
ような世界観になって趣味性が高い感じでレイドバックしているけど、作品としても
今までよりもナチュラルな方向性で、妻サリーとの共同プロデュースとなっている。

今作は全体ではサイケ感は有るのだけど、前作までのサイケ・ロックでハードな側面は
後退し、有り体に言ってしまえば今作はソフト・ロックのようなイメージである。
また、前作より存在感が増していた妻サリーの要素も増えている。とは言えトラッド
的な世界は意外にも多くないのが今作である。

相変わらず強烈なフックは無い人なのでまだ聴き込んでないから何とも言えないけど
純粋に楽曲の出来というなら今作が最も粒ぞろいではないだろうか。サウンドも統一性が
有って聴きやすい感じである。今回も全て一人で演ったというよりは、必要なところで
必要なミュージシャンを呼んでバンド的に録音している感じだけど、一言で言うなら
シンガー・ソング・ライター、スティーヴ・クラドックの世界を垣間見れる作品である。

1曲目「Any Way The Wind Blows」は抽象的な雰囲気からいきなり妻サリーの
ヴォーカルでスタートする妻との共作曲。お得意の60年代的な音像だけど
スタートとしては意表を突いてる感じで良い。

「I Am The Sea」はワルツでヴォーカルは少し音響っぽくサイケ感もあるけど
今までよりはシンプルな感じである。


「I Am The Sea」 Steve Cradock

「The Magic Hour」「Street Fire」はモロにソフト・ロックな一曲で甘い感じなのが良い。

「Doodle Book」はこの作品の少し前に出たオーシャン・カラー・シーンの
『ペインティング』にも収録されている曲のセルフ・カバーで、オーシャン本体では
骨太なモッド・ロックに決めていたが、こちらではもう少し穏やかで妻のパートも
有り、若干構成も異なる。

アルバムの最後も妻との共作「Dreaming My Life Away」で締めくくられ
何となく1曲目と似た路線の抽象的なナンバーで、コンセプトが有るようにも感じる。

という訳で、渋い?ジャケットと内容が余り関係無いような気がするのだけど
(『ペインティング』も皆でシタール(タンブーラ?)を持っていたジャケで内容は関係なかった)
全体としては若干内省的な面やソフト・ロック的な世界が展開されていて聴きこむと
もっと好きになりそうである。

こんな感じでここ5年位でスティーヴのソロ活動はかなり活発化している。
最初はオーシャン・カラー・シーンだけでは表現できないことを素朴に
組み立てていたイメージだったけど、段々自分の中の創作意欲や実際に
一人や妻と深めていきたい世界が出てきてるんだろうなと感じるようになってきた。

思うに彼のソロ作品はオーシャンと音楽性が乖離しているとは思わないのだけど
こじんまりとしているというか、サウンドにサイケを盛り込んだりしてる割には
地味目に聴こえる。つまりオーシャン・カラー・シーンって音楽やスタイル全体の
コンセプトはスティーヴに依る所が大きいのだろうけど、ダイナミックさや
ここ一番で聴ける名曲級の楽曲はサイモンのソウルフルなヴォーカルや楽曲に
よって成り立っているんだろうなと思うのである。

バンドというのは面白いもので見事なバランスで成り立ってるからこそ
オーシャン・カラー・シーンは長く続いてるわけで、ソロもやりつつで良いので
これからもオーシャン・カラー・シーンが続いてほしいと、そんな風に僕は
願っている。


posted by cafebleu at 23:35| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | Ocean Colour Scene | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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