2013年12月01日

North Atlantic Drift

"迷いを吹っ切り原点回帰を果たした第二期の完成形、そして幾つかの別れ"


『North Atlantic Drift』(2003) Ocean Colour Scene

作品個々の質はどうあれ、前作『メカニカル・ワンダー』時の彼らは
明らかに迷いの中に居たと思う。去りゆくUKポップ・ロック時代と
その後何処へ向かうのか。結局答えが出ないまま内省に向かうしか無かった。

しかし、並み居るバンドがほぼ解散や休止、もしくはレーベル契約を失う中
彼らは前作でユニバーサルとの契約は満了したものの、ブランク無く
サンクチュアリ・レコードとアルバム契約を交わした。そしてレーベル移籍
第一弾として発表されたのが今作『ノース・アトランティック・ドリフト』である。

最初に言っておくと『モーズリー・ショールズ』から続いた骨太で70年代の
ダウン・トゥ・アースを思わせるアナログ感と90年代的な空間を活かしたアレンジの
系譜作品を"第二期オーシャン・カラー・シーン"とするならば、その集大成であり
完成形でもある本作は名作と言って良い。

とにかく個々の曲のレベルが高く、それをバンド全体でしっかり作りこんでいる。
バンドが主体では有るけどアレンジにも技巧を凝らしているし、前作のように
サイモンのアコースティックな世界観が支配するような事も、『ワン・フロム・ザ・モダン』
のように、ともすればライブではやりづらいかなという派手なプロデュースという
訳ではない(『ワン・フロム・ザ・モダン』を批判しているわけではない)。

つまり、このアルバムは『モーズリー・ショールズ』『マーチング・オールレディ』時代
のようなバンドらしいサウンド、アレンジを主軸にしながらも、それをここまでの経験で
より深化した形で提示してみせたという点で、これがオーシャンの答だったのだと解る。

結局彼らは時代を"捨てて"己のソウルを突き進むことを選択したわけである。
もはや2003年当時にイギリスでこんな音を出している輩は何処にも居ないような時代だった。
師匠のウェラーですらクラブ系譜のヌーンディ・アンダーグラウンドのサイモン・ダインと
近づいて、彼をプロデューサーに沿えた『イルミネーション』をリリースし、
ダウン・トゥ・アースな世界から離れ始めた頃だった。

そういう意味でもオーシャン・カラー・シーンは流行とは無縁の存在になっていく。
特に今作からは『モーズリー・ショールズ』時代のオーシャン・カラー・シーンを
ボトムアップしたような印象を受ける。ある意味では悩んだ末の答えとして
もしくはレーベル移籍第一弾として、ファンが期待する姿を見せる必要が有ったのかも
知れない。ミュージシャンには色々なタイプがあるけど、作品の度に変わっていく
例えば一時期のU2とかがそうだけど、デビュー当時アイルランドの熱き青年ロック
だったものが気がつけばデジタル・ロックの筆頭になってUKテクノのブームと対峙して
「ディスコティック」や『POP』を作り上げた。それも悪いことではない。

しかし、常に己のスタイルを貫いて、その上で表現を深化させていくことも評価
するべきだろう。ブレず変わらずにファンの心を掴むのだって素晴らしいことである。
そういう意味で捉えると保守的な作品では有るのかもしれないけど、このアルバムは
いろいろな意味でここまでのオーシャンの総決算になった。

一つは直後のデーモン・ミンチェラの脱退、そしてもう一つは今作がマーティン・ヘイズの
最後のプロデュース作品になったことである。『モーズリー・ショールズ』から続いてきた
ブレンダン・リンチ一派のプロデュース作品はこれを最後に聴けなくなってしまう。

ちょうどウェラーも2000年の『ヒーリオセントリック』を最後にブレンダン・リンチから
離れてしまう。この辺りからもアナログ的なサウンドが持て囃された一つの時代が
終わったのだなと今でも思う。

そして何よりもバンドにとって大きかったのがベースのデーモン・ミンチェラが本作
発表後程なくして脱退してしまったことだろう。最初は耳を疑った。
だって当時ウェラーのサポートを相変わらずスティーヴとデーモンは行っていたし
(結局脱退後も二人はウェラーのサポートで数年間一緒に演奏していた)
何よりも四人の結束力は高いバンドだと思っていたのでこの結果は意外だった。

彼はバンドでもスティーヴやドラムのオスカーのようにマルチプレイヤーで実際
アルバムでもいろんな楽器をやってる訳でも無いし、サイモンのようなソングライティングを
してる訳でも無かった。その点で最も地味なメンバーと言えるのかもしれないけど
彼の目立ちすぎず、かと言って後ろに引いてるだけではないスタイルはオーシャンの
クールな雰囲気に大きな役割を担っていたと思う。あと、変にマルチプレイヤーで
無い分、職人ベーシストらしいベースを弾く人だったし、オスカーとの重いグルーヴは
独特のオーシャンらしさを作り上げていたのでバンドへの痛手は大きかった。
それは後々少なくともリスナーにはじわじわ感じるようになっていく。

とは言え、それらは後々分かったことで、このアルバムの充実度に影を差してる訳ではない。
前作の頃に思案していた、流行が完全に終わって、むしろ逆風が吹いた時バンドが何処に向かうのか?
その回答は幾つか有るだろうけど、オーシャン・カラー・シーンは時代と距離を置くことを
選択し、自らを押し上げた『モーズリー・ショールズ』の原点に帰って、力強い完成形を
作り上げた、そんな作品に思える。

僕はそれを第二期オーシャン・カラー・シーンと呼んでるが(第一期はデビュー当時の
マッドチェスター末期のサウンドで第二期は『モーズリー・ショールズ』から本作までの
90年代的モッド・ロック路線、そして次作以降が第三期である)、ここまでが
黄金期のオーシャン・カラー・シーンと言って良く、これ以降この時代に勝るような
輝きは正直見れなくなってしまう。そういう意味でも貴重な瞬間を切り取った作品だし
それを知っていたのかは分からないけど、ファンの期待を裏切らないパワフルな作品だった。

アルバム全体の雰囲気としては絶頂期だった『ワン・フロム・ザ・モダン』に一歩譲るかも
知れないが、個々の楽曲のクオリティやバンドのアンサンブルでは今作がベストだと僕は
思っている。特に時系列で聴く必要も無い後追いの世代なら、ブーム時代の名作と並べて
聴いても何ら劣らないモチベーションの高い作品なので是非聴いてほしい。

簡単に内容をおさらいしておくと

1曲目「アイ・ジャスト・ニード・マイセルフ」は十八番のリフで引っ張るモッド・ロック
で、先行シングルにもなった。今までよりもリズムやリフが凝っていて、
ミドルテンポくらいのスピードながら細かいリフを刻むドラムや16ビートっぽいスティーヴの
カッティング、そして前作控えめだったギミックの聴いたプロデュース(アレンジ)に心を奪われる。

2曲目「オー・コレクター」は如何にもなタイトルだけど、内容も骨太でダイナミックな
ロックナンバー。オスカーのタム回しリフと控えめな演奏でスタートしてサビで一気に
開ける展開は聴いていてもゾクゾクするような個人的にもお気に入りの曲。

3曲目のアルバムタイトル曲「ノース・アトランティック・ドリフト」はファンにも
人気の高い曲で、これもオーシャンお得意の70年代的なダウン・トゥ・アースな曲。
いきなり気の利いたスライドギターでスタートし、バンドがしっかりと演奏が支える中
サイモンの少しメランコリックなメロディーラインが良い。『モーズリー・ショールズ』や
『マーチング・オールレディ』に入っていても違和感のない感じである。

4曲目はシングルカットされた「ゴールデン・ゲート・ブリッジ」で、これもバラードと
言えるような静かな歌い出しからスタートし、サビでバンドがジャストタイミングで
入ってくるオーシャンらしい間を活かした曲で、これもライブでは人気が高い。
オーシャンのライブに行くとわかるけど、アップテンポなナンバーは勿論人気は有るけど
意外と「ワン・フォー・ザ・ロード」「デブリス・ロード」とか前述の
「ノース・アトランティック・ドリフト」辺りで非常に盛り上がる傾向が有るのである。

5曲目「メイク・ザ・ディール」もシングルカットされた。この曲は今までの彼らに
余り無かったリズムの曲で、言ってしまえば、オーシャン流"フィル・スペクター"ソング。
ドラムにはエコーが、そしてリズムは「ビー・マイ・ベイビー」ウッドブロックに
壮麗なオーケストレーションとまさにその世界。最初聴いた時は何か違和感を感じたのだけど
このレビューのために改めて聴いたらとても美しい楽曲なので素晴らしい曲だと思う。

6曲目「フォー・エヴリー・コーナー」は個人的にアルバムの中で一番好き。
如何にもサイモンらしい楽曲なんだけど、単にアコースティック中心に仕上げず
少しづつバンドが参加して、サビでは彼ららしい引き締まったリズムで仕上げて
きらびやかなポップナンバーになっている。ベースでファズを使ったりなども気が利いてる。
今回は今までならサイモンのアコースティック中心でも仕上げられてしまいそうな楽曲も
しっかりバンドでアレンジを作りこんでいる、そういう好例の曲。

7曲目「オン・マイ・ウェイ」はファンキーなリフから始まるオーシャンらしいロックナンバー
だが、いつも程キメキメではなくもう少し肩の力が抜けた感じ。ホーンの使い方を
聴いていると、次作で登場するブラス・ロック路線を少し思わせる。

8曲目「セカンド・ハンド・カー」はこのアルバムの影のハイライトの一つで
サイモンのアコースティックで少しメランコリックな世界観にバンドが
引き締まった形で入ってきて、まるで呑んだくれてないフェイセズのような出来だ。
かなり好きな曲の一つ。

9曲目「シーズ・ビーン・ライティング」はオーシャンの、そしてサイモンの
キャリアの中でも出色の名曲である。サイモンはこれ以降この曲の世界観を
維持していき、後の「オーバー・マイ・ヘッド」やサイモン自身のソロ作で
このジェントリーで英国的ルーツに根ざした世界観を深化させていくことになる。

実際この曲はサイモンが敬愛するフェアポート・コンヴェンションのヴォーカル
サンディ・デニーに捧げられており、更にゲスト・ヴォーカルには
フェアポート・コンヴェンションのリチャード・トンプソンの元妻
リンダ・トンプソンが客演している凝りようで、そのハーモニーも含めて
充実の本作中でも白眉の仕上がりである。


「She's Been Writing」 Ocean Colour Scene

アルバムはスケールは大きいが幾分抽象的な「ホエン・エヴィル・カム」で幕を閉じる。

こうして最初から聴いていくと、改めて素晴らしい作品で、バラエティにも富んでいるし
かと言ってオーシャン・カラー・シーン本来の芯はブレてないのでとても聴き心地が良い。
強いて言えば最後の2曲が今までのアルバムの最後ほど締まってない気もするけどオーシャンの
アルバムはこれまで前半に全開になって後半は静かな曲や渋目のナンバーが多い傾向が
有るのだが、今作は中盤から後半にかけて聴きどころが満載なので飽きさせない。

少なくとも2003年当時、こんなレトロなロックは誰も持て囃さなかったのかもしれないけど
時代が何時であれ、オーシャンはオーシャンらしく充実した作品を作っていたことは
忘れないでほしいと思う。そして、このアルバムがオリジナルメンバーで最後の
また、オーシャンを支えてきたブレンダン・リンチ、マーティン・ヘイズがサウンドで関わった
最後のアルバムになったことも感慨深い。

何よりも『モーズリー・ショールズ』から続いてきた長い旅は一旦ここで終わったと
そんな風に僕は捉えてこの充実作を今は聴いている。

次作の頃にはブリット・ポップから10年が経過し、周辺の状況も変わるのだが
逆にオーシャン・カラー・シーンは残念ながら暫く低迷期に入ることになる。


posted by cafebleu at 03:30| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | Ocean Colour Scene | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。