2012年09月09日

山下達郎 シアターライブ PERFORMANCE 1984-2012

"予想通り非の打ち所が無いライブ音源と、予想を遥かに超える貴重な映像の数々"

山下達郎『シアター・ライブ PERFORMANCE 1984-2012』



いくら臨場感が有る映画館のライブ上映とは言っても、実際のライブの4列目とかで
達郎さんの姿を拝んでしまった自分としては、はち切れるほどの期待をしていた訳
ではなかった。変わらず健在だったPerfomance2011-12ツアーを思い出しながら
軽い気持ちで大きな画面と優れた音響の有る映画館でライブ音源を楽しめればと良いと。

しかしながら、実際の映像と音源はこちらの想像を超えるもので、日曜の夜、
憂鬱で次の日が気になるひとときと言うシチュエーションを忘れて楽しませてもらった。

感想から先に始めたが、8/25より1週間限定で山下達郎さんのシアター・ライブが
全国で上映された。音源や映像は"PERFORMANCE"と題され彼が行なってきたライブツアー
からのもの。

彼のライブ音源としては既に名盤の誉れ高いライブ・アルバム『JOY』('89年)が有り
こちらは1981年〜89年までのライブ音源をまとめたもので、ファンなら大概の者が
手にしている作品と言えるだろう。

しかしながら、これも有名な話だが、彼には映像作品というものがオフィシャルには
全く存在しない。これは80年代以降に活躍しているミュージシャンとしては稀な話である。

だからシュガー・ベイブ時代のTV出演を除いては僕の知る限りではTV出演すら無い。
80年代当時はベスト10のような音楽番組も複数放送されていたし、ヒットスタジオの
ような番組も有ったのだが、そこでランクインしても彼が出演することは無かった。

唯一の例外が92年頃アルバム『アルチザン』がレコード大賞を受賞した時に
電話!で受賞のコメントを述べて、そこで「さよなら夏の日」の本人プロモが流れた事は
有ったが、何れにせよ本人が受賞に登壇した訳でも、楽曲の演奏を行ったわけでも無かった。

これには本人の思想やプロの音楽家としての戦略など様々な理由が有るのだろうが
それにしたってあれだけライブが凄いのにライブDVD一つも無いのは不自然ではある。

そもそも音源としてのライブ・アルバムですら1989年の『JOY』以降は正式なリリースは
無く、熱心なファンはシングルのB面に入っているライブ・テイクや彼がDJを務める
『サンデー・ソング・ブック』における本人のライブ特集で小出しにされながら、
ツアーの度に噂になったり、本人も口にする「Joy2をそろそろ出そうかな」的な話に
期待させられて早23年も経過しているというのが現状だったりするのだが。

そういう切望感の中シアター・ライブが決まり、僕もライブ音源を丸々映画館で
鑑賞したことが無かったので一つの楽しみとして鑑賞しに行く事にした。

しかし、このシアター・ライブの問題はチケットの販売方法で、先ず前売り券を
ワーナーから購入すると、印字ではないちゃんとした鑑賞券を入手できるのだが
これがクセモノで、この鑑賞券を上映映画館で指定席に変えてもらわないといけない。
しかも引換可能なのが上映開始の2日ほど前にようやく上映スケジュールがリリース
される勿体ぶりで、ギリギリでようやく何時の回なら自分は都合が合うかなどを
考えられるわけ。

普通にサラリーマンでそこそこ忙しい人間なら、平日新宿だの桜木町だのに仕事帰りに
寄って指定席をゲットして、そして二日後にもう一度映画館に赴いて実際に観るなんて
行動がどれだけ負担になるのかレコード会社や配給先は考えたことが有るのだろうか。

僕は東京近郊の公開劇場だった2つの映画館(新宿バルト9、桜木町ブルク13)には共に
向かえる距離ではあったけど、仕事の行き帰りには全くかすらないので事前に
指定席を取りに行くのは難しい。よって当日少しだけ早めに行けば良いかなくらいに
考えていたが、この目論見は見事に撃沈し、日曜20時過ぎの新宿バルト9の回には
現地まで行ったのに「もう空いてないです。後は26:30からの回が空いてますが。。」と
言い放たれて一度目のチャレンジには失敗した。普通に考えて月〜金に働いてる
サラリーマンの何処に日曜(明けて月曜)夜中2時から映画を観れる余裕があるんだと
叫びたくなったが、無いものは無いんだから仕方無い。

その後2日だけ延長の発表が有ったので、日程スケジュールに土日にもう一度かかることが
判明し、今度は新宿より余裕が有る様子だった桜木町のブルク13まで先に指定席を取りに行って
ようやっと映画まで漕ぎ着けたのである。

映画館の前売りなら印字券では有ってもネットで指定席を予約できたようで、これだったら
最初からワーナーの前売りなど買う必要が無かったし、少し安いとかそういうのはこんなに
何度も映画館に行っていたら交通費でとっくに相殺か損してるわけだから酷い話である。

せっかく熱心なファンが足繁く作品を楽しもうと忙しい中工面して出費してるわけだから
その辺りは今後是非とも改善してもらいたい事項として苦言を呈させてもらう。
映像を簡単に解禁しないと言う事自体は音楽家としての考え方の一つだろうから
それはそれで致し方ないのだけど、その待望感を知ってか雑に展開しても客は集まるだろう的な
レコード会社や映画の配給会社にはウンザリである。

さて、内容だが、それ自体は至ってシンプルなコンセプトで、山下達郎さんのライブを
80年代から2012年までダイジェスト的かつベスト的にまとめた映像作品である。
特に合間に独自映像が入るとかそういう事は無く、通常のミュージシャンであればDVDとして
発売しても何ら不思議の無い純粋な"ライブ・ダイジェスト"と言ってしまって良いだろう。

ダイジェストと言っている理由としては、ライブ特有の長尺なインストやヴォーカルの
パートは一部省かれているためだ。専らその理由はどちらかと言うと映画上映の尺に
合わせたからという推測が出来るので、もしこれがDVDとかならそのまま収録
されたかもしれない。

それでも各曲のコアな部分はしっかりと収録されており、不満の残る編集ではない。
選曲自体は言い出したらキリがないのだが。。。

実際の選曲は以下の通り。

01)SPARKLE
1986.7.31@中野サンプラザホール(PERFORMANCE '86)
02)LOVELAND, ISLAND
1986.10.9@郡山市民文化センター(PERFORMANCE '86)
03)メリー・ゴー・ラウンド
1985.2.24@神奈川県民ホール(PERFORMANCE '84-'85)
04)SO MUCH IN LOVE
1986.10.9@郡山市民文化センター(PERFORMANCE '86)
05)プラスティック・ラブ
1986.7.31@中野サンプラザホール(PERFORMANCE '86)
06)こぬか雨
1994.5.2@中野サンプラザホール(Sings SUGAR BABE)
07)煙が目にしみる(SMOKE GETS IN YOUR EYES)
1999.2.4@東京・NHKホール(PERFORMANCE '98-'99)
08)ずっと一緒さ
2008.12.28@大阪フェスティバルホール(PERFORMANCE 2008-2009)
09)DOWN TOWN
2008.12.28@大阪フェスティバルホール(PERFORMANCE 2008-2009)
10)希望という名の光
2012.4.1@神奈川県民ホール(PERFORMANCE 2011-2012)
11)今日はなんだか
2010.10.27@神奈川県民ホール(PERFORMANCE 2010)
12)アトムの子
2012.4.30@大宮ソニックシティ(PERFORMANCE 2011-2012)
13)RIDE ON TIME
2012.4.30@大宮ソニックシティ(PERFORMANCE 2011-2012)
14)恋のブギ・ウギ・トレイン
2012.4.30@大宮ソニックシティ(PERFORMANCE 2011-2012)
15)さよなら夏の日
2010.8.14@石狩湾新港樽川埠頭横 野外特設ステージ(RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO)


選曲としては比較的王道と言うか、ある程度彼の作品を知っていたり
ライブを観たことが有るのなら解りやすい構成といえるだろう。

正直に言うと、ライブの定番である一人アカペラやオーケストラ物
(バックに自分のハーモニーやオーケストラをカラオケで流すやつ)
こういう作品では割愛してストイックなファンキー・チューンを増やしても
良いのではないかとは思うのだけど、初めての映像作品では有るので
そこは有難く鑑賞させて頂くとして。。

先ず驚いたのが動く達郎さんの映像がしっかりと残っていることだった。
彼が映像作品を好まないのは随分昔から有名な話で、実際僕が観に行った
3回のライブでもカメラクルーが入っていた記憶もなく
(実は同行していたモダプロ・リーダーはその内の1日にカメラが有ったと
言っていた。どうも僕はステージに気を取られすぎて気付いてなかったらしい)
PAの録音は毎度していても、映像には興味が無いのだろうと決めつけていたのである。

だから当初このシアター・ライブも
「もしやライブ音源に合わせて写真とかがスライドショーのように出てくるのでは?」
と不安な気持ちになっていたのである。

そんなモノだから、特に80年代の映像がこれ程しっかり残っているとは思いもしなかった。
しかもその多くは『Joy』に収録されたテイクだったというのも驚きであった。

上記の通り80年代の音源の殆どは『Joy』収録のテイクと同一の物であったが
映像が乗ってくると印象もまた変わるもので、例えば軽やかな楽曲として知られる
「ラブランド・アイランド」辺りの実際の演奏時のテンションたるや半端ではないし
ファンクと言って良い「メリー・ゴーラウンド」の緊張感は観てるこちらにも
ヒシヒシと伝わってくる。やっぱり改めて80年代の
青山純、伊藤広規、椎名和夫で編成されたバンドは最高だったし、
あの年齢や時代でしか成し得ない笑顔一つ許さないようなミュージシャンシップの
対決を聴いているような様には痺れるとしか言い様がないのである。

映像では大体時系列的にライブ映像が進んでいくが、80年代のライブの後は
94年のシュガー・ベイブ全曲ライブでの「こぬか雨」を挟んでいきなり2000年代
後半のライブが主となる。

ここには比較的名演が多い"PERFORMANCE'98-'99"からの映像
(例外的に「煙が目にしみる」のみ収録されているがバンドの映像はない)や、
2000年代前半に行われRCA時代の作品を演奏した
"PERFORMANCE 2002 RCA/AIR YEARS SPECIAL"の
映像は含まれていなかったが、これは意図したものなのか、この時代の
映像が残ってないのかは詳しくは分からない。

上記がほぼズバッと抜けているので、前半の80年代映像と前述した「こぬか雨」が
終わると「煙が目にしみる」を挟んでいきなり2008年の「ずっと一緒さ」に
なるので、結構若い頃と現在でのライブに対する取り組み方の違いが明確になる。

勿論今でも手抜きなく素晴らしい演奏でステージを続けている訳だし
還暦を間近にしてヴォーカルはむしろ近年のほうがより上手くなっているような
印象さえ受けるのだけど、80年代の作品のように、誰かが間違えたらその場で
崩れてしまうような危うさや緊張感は大分収まり、各ミュージシャンにも自由な
フォームをある程度は許可しているのだろうと言う事は想像出来る。

解りやすいところでは椎名和夫から佐橋佳幸に代わったギターの部分で
ミュートのリフでも達郎さんの顔色を伺いながら慎重に一音一音を弾き出していた
椎名和夫のギターと比べると、佐橋佳幸のギターは幾分自由に表現しているように
映るし、実際ライブを観ても弾く時は結構弾きまくるなという印象は有った。
僕は椎名和夫時代のバンドは観れてないので全貌は分からないけど、その位
時間が経って、達郎さんの中でもライブに臨む姿勢って変わってきているのではないかと
そんな風にも思えた。

後はイケメンドラマー小笠原拓海くん。とてもスマートで上手なドラマーだと
思うし、これからも伸びしろが十分ある人だと思うのだけど、やはり青山純、伊藤広規で
気づいてきたグルーヴっていうのは20年にも渡るわけで、その後につくり上げるのは
大変な事だとは思うけど、頑張って欲しい。青山純という人は例えばライブだと
「さよなら夏の日」のようなバラードでもヘヴィなグルーヴをいとも簡単に作り出して
しまう人なので、そこに耳がチューニングされているヤマタツ・ファンとしては
スマートが過ぎてしまうように聴こえるのだけど、その中でも彼が見据えるべき
究極のスタイルはまだまだ先に有るように思えるので、これからだと思う。

しかし、直前のツアーとなった"PERFORMANCE 2011-2012"では大宮ソニックシティでの
公演でかなりテンションが高かったのだなとこの映像を観て思ったりもした。

最後はRising Sunで何十年かぶりにフェスに出た時の「さよなら夏の日」で
遅い夏のプレゼントとして届けてくれたこのシアター・ライブはお終い。

凄く曲に感動して泣いている女性がクローズアップされていたのは・・・何故?
とか思ったけど、ちょうど上映時期的にも良いエンディングでは有ったのかな。

しかし、この上映に行った後も「あぁあの映像観たいなぁ」とふと思う時が有る。
それくらい達郎さんの動く姿、ライブでの雄姿にこれまでありつけないで居たので
それがほんの少しだけ満たされた想いも有るのだろうけど。

達郎さんは、例えば最近別の回で取り上げてる高野寛さんのように、ビジュアルと楽曲
そのものが本人のポップ感を作り出しているというような、そういう感じではなく
本人自身は職人気質の人で、素晴らしい作品のためにこれ見よがしな映像は不要だって
いう考えの人だとは思う。これはどちらが正しいとかではなく考え方なのだけど。

例えばウェラーが全くヴィジュアルに訴えなかったら、そもそもモッズというカルチャー
自体がファッションと音楽を中心としたイデオロギーでも有るので、彼の存在感の
半分も伝わらなくなると思う。

でも達郎さんの場合は本人も音楽で100%伝えるタイプだという自覚も有るだろうから
今までも映像作品という物に重きを置かなかったのだろうと邪推できるし、
実際僕もそれほどの拘りは無かったのだけど、こうやって初めて映像で観る音楽と
相対してみると、そこに満ちていた空気とかそういうのは、凡人には補足しきれない
部分も有る訳で、改めて何故『Joy』があれほど完成度も高く、世間の評価も高いのか
映像も含めて少し分かったような気がしたのである。

そういう意味ではどうかこの貴重な作品もDVD化してくれたらいいのになとは思う。
きっとしてくれないだろうけど。。。

そう思っていたら、何と渋谷でアンコール上映か。。

http://theaters.toei.co.jp/theaters/shibuya1/

さ、最初から渋谷でやってくれれば行き易かったな、何て思ったりして。。
でもこれは良い知らせなので、もう一度観て焼き付けてこようかな。

今回は長い割に散文だったけど、やっぱり達郎さんは素晴らしいということで。
後は『Joy2』のリリースを本当に待望している。

8月下旬に観た高野寛+伊藤大助のライブは仕事の都合で1時間以上遅れてしまったので
9/27に再度高野寛さんのソロライブでリベンジ予定なので、それを観た後また
感想を書こうかと思う。


posted by cafebleu at 15:00| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 山下達郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
山下達郎「ターナーの汽罐車」の世界観を小説にしました。山下さんに読んでもらいたいと思っています。そこでどうか「山下さんを知ってそうな人を知ってそうな人」にチェーンメールを送ってくださいませんでしょうか。http://kikansya.exblog.jp/ 著者・鏡筆
Posted by 鏡筆 at 2014年01月22日 15:26
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