2012年08月22日

Kameleon Pop

"難しい時期にリリースされてしまったけど、作品としては純粋に好作"

『Kameleon Pop』(2011) 高野寛



既に前作やここまでレビューで個人的な想いや高野寛さんの活動については
触れていたりするので、ここでは早速レビューに移ろうと思うが、少しだけ。

現在のところのソロ最新作である『Kameleon Pop』は2011年4月に発売されている。

僕は彼の全てを追いかけている訳ではないのだけど、ソロのスタジオ・アルバム
くらいは大概押さえていて、すぐに買わないことも有るけど、情報くらいは知ってるし
実際リリースされて遠くない内に購入している。

ところが、2009年の前作『Rainbow Magic』から1年半と言う彼にしては短いスパンで
発売された今作について情報を知ったのは比較的最近で有った。

何故、最近彼の情報を追ってなかったのかとふと考えてみたが、それは間違いなく
このアルバムの発売時期に有るのかなと。

2011年4月と言えば大概の人なら覚えているだろうけど、東日本大震災の直後で
実際4月くらいの頃はまだその余波も収まってなく、続く余震や原発事故に伴う
不安などが蔓延している頃で(それらはまだ決して終わっていないけど)
本当に各自が今まで経験したことのないような焦燥感に駆られていた頃ではなかったかと。

僕個人のことだが、この頃は震災による状況変化もさることながら、それに伴い
仕事にも変化が起きていて、震災対応的に出張が頻発していた時期だった。
この頃のブログにもそれについては触れているが、改めて自分の文を読み返しても
生々しい感じがする。

震災のような社会的な事も有れば、仕事も出張だの家は引越しだの色々有ったのが
この時期で、何となく音楽をリサーチしようという時期で無かったのは確か。

そんな時期にリリースされたのが『Kameleon Pop』である。実際震災直後ではあるが
特に震災をテーマにしたような様子は無い。実際マスタリングも震災前に殆ど終わって
居るだろう時期だし。

山下達郎さんは『Ray Of Hope』のレコーディング中に被災したので、後にそれを
反映したと言うし、震災前に書かれていた「希望という名の光」という曲が
この震災後に大きな意味を持つようになったので、当初の予定を変えて、この曲を
コンセプトの中心に置くアルバム編成に変えたというのは比較的有名な話だろう。

そんな事も有り、本当に激動の時期にひっそりとリリースされた感の有る今作だが
一聴した感想は「前作のメジャー感はまた一段落して、少し落ち着いた感じに戻ったかな」
という感じではあった。しかしそれは一面的な聴き方で、このアルバムは名作だということも
長くなる前に伝えておこう。

実際前作『Rainbow Magic』の頃に既にほぼ完成していたり、イメージが出来ていた
マテリアルからが中心のようでそういう意味では兄弟的な性格のアルバムのようだが
部分的には相似点を楽曲からは感じるけど、音作りや、全体的なアルバム制作は前作で
久々に見せたようなメジャー・シーンを意識した感じではなく、DAWを前に高野寛本人が
作りこんでいった様子が伺える、そんな宅録感の有る作品である。

なので、自分的には好作なれど地味目かなと思っていたけど、やっぱり高野寛さん
何度か聴きこむとメロディが染み渡ってくる。心に響くものが有る。

さて、アルバムについてだけど

1曲目の軽快な「On The Timeline」でアルバムはスタート。
Twitterからインスパイアされての楽曲のようだ。なるほどタイムラインね。
ちょっとエレクトリック・ポップな感じなのはpupa影響との事。


「On The Timeline」('11)

2曲目の「Time Drop」は本人曰く"元はプリファブ・スプラウトのようなイメージだった"
とのことだが、もしかすると彼らの2009年作『レッツ・チェンジ・ザ・ワールド・ミュージック』
を聴いてインスパイアされたのかな。特にパディの楽曲に似ているわけではないけど
何となく楽曲のアレンジに上記のアルバムを思わせるところが有る。アルバムの中でも
キャッチーな感じで良い楽曲である。

3曲目は何をいわんやトッド・ラングレンの名曲「アイ・ソー・ザ・ライト」のカバー
しかし、ただのカバーではなく、日本語詩でのカバーである。

ちょっと最初聴いたときはたまげたけし、大概こういう事を普通の人がすると
とても痛いことになりがちだけど、このカバーはいやらしくなく、すんなりと流れる。
サウンドも余りいじりすぎずという感じかな。トッドの曲をやっても違和感が無いのは
やっぱり初期のコラボレーションと彼がトッド・マニアで有ることの証左なのだろうか。

4曲目「雪どけ」はウクレレでレゲェのリズムを奏でつつも楽曲としては冬や
クリスマスを思わせる優しくて少しだけ切ない佳曲だが、この曲のベースになってるのは
スティングの「イングリッシュ・マン・イン・ニューヨーク」では無いだろうか。
とっても優しくて良い曲である。

6曲目と7曲目のみブラジルのミュージシャンとの共演による作品のようである。
「Skylove」は宇宙ファンなら御存知の通り70年代に稼働していた宇宙ステーションの
事で、実際サウンドもスペーシーな感じだけど、余りエレクトロニカに頼らず
バンドやグルーヴでそういう事を表現している。心地良いグルーヴである。

「壊れそうな世界の中で」は時期的には震災に関係が有るのかと思うが
そうではなく、ダムで消えゆく故郷をテーマにした楽曲だそうだ。
タイトル程重いサウンドではなく、ボサノバ調のリズムの小品と言った趣。

8曲目「Magic Days」はドラムンっぽいリズムが全体を貫く楽曲で、2004年
『確かな光』収録の「声は言葉にならない」でも聴けたようなアプローチか。
楽曲自体は普通にメロディに溢れているのもそうかな。

9曲目はタイトルを見ただけで誰でも解るYMOのカバー「君に、胸キュン。」である。
最初ジャケットを見た時"高橋幸宏との関係はわかるけど、この曲をカバーするのか・・・"
と不安になったけど、出来は中々良くて伊達に彼らの薫陶を受けてないなと思う。
ヴォーカルがいいよね。

10曲目「GLOW」は本人のエレクトリック・シタールが冴え渡るアルバムのハイライト。
マイナーという訳ではないけど、何処か憂いのあるメロディと心なしかメランコリックに
響く名曲で、サビのハーモニーも美しい。シンガー・ソング・ライターとして
ここまで20年以上活動してきた深みを感じる一曲だけど、何故かとても切なくなる。
何でだろう、僕も歳を取ったのか、こういう回顧的な世界観に懐う物が有るのかな。

11曲目の「十字路に降る雪」は本人もクリスマスソングと思ってもらって構わない
との事で。ワルツのゆったりとしたリズムが大きく包み込んでくれるような美しい曲。
クリスマスなんてある意味この歳になると陳腐に感じる時が多いのに、この曲は
そういう所で聴きたくなる、純粋なクリスマスソングって感じがする。

そう、それは何処かプリファブ・スプラウトの世界と通底してはいないだろうか。

12曲目「君住む街へ」はこのアルバムに伴うアコースティックツアーのタイトルにも
なった楽曲。"君住む街へ、カバンを転がして〜"という歌詞は中々出てこないかな。
メロディも何処かノスタルジック。

13曲目はちょっとしたボーナスって感じかな。

しかし、こうやってレビューを書くために何度かリスニングしながら書いてるけど
このアルバムは素晴らしい作品だと思う。前作のような派手さには欠けるかもしれないけど
全体の楽曲のレベルの高さは半端じゃなく、もしかすると前作以上かもしれない。

何だか発売時期で少し大変な時だったのでもう一歩話題が少なかった感も有るのだが
近年の活動の充実ぶりを伝える一作であると、そう思うし、ポップ・ミュージックが
好きな皆にも是非聴いて欲しい、そんな想いのする一作である。

ヒットだけがミュージシャンを測るモノサシではないことはニック・ドレイクや
スティーヴン・ダフィがいつも教えてくれるけど、89年の「虹の都へ」が無かったら
中学生の僕には彼に出会う術が無かっただろう。その頃に知れなければ今は名前は
知っていても聴いていなかったかもしれない。

あの曲から23年余り、いつも熱心にと言うよりは断続的に彼を追い続けてきたわけだけど
毎度とは行かなくても時折彼の作品だけでなく活動をもう少しチェックして
これからも変わらぬ良質な歌を聴かせて欲しいと、少なからず長く応援している
者として素直にそう思う。


posted by cafebleu at 00:32| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 高野寛 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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