2011年09月24日

ヤマタツのつぶて 〜Pt.3 POCKET MUSIC〜

〜デジタルへの悪戦苦闘を実況化した人間らしいアルバム〜


達郎さんのライブチケットも無事当選したので
(初日市川と2週間後の群馬の両方。しかもその間には
オーシャン・カラー・シーンの振替公演も有ったりする)
引き続き"ヤマタツのつぶて"を続けていこうかと思う。

今回は少々前後のアルバムが派手なので埋もれがちな
86年作の『POCKET MUSIC(ポケット・ミュージック)』を紹介。


『POCKET MUSIC』('86) 山下達郎

このアルバムは前作(サントラの『BIG WAVE』をここでは含まない)に
収録されていた「高気圧ガール」のヒットを受けて、CM、特に自動車関係での
タイアップなどが増え、その他にもオレたちひょうきん族などでEPOによる
「DOWN TOWN」のカバーや達郎さん本人が本編でネタにされたり、
実際本作に収録された「土曜日の恋人」などもエンディング・テーマとして
採用されたりと、より一層"山下達郎"の認知度が上がってきた中での作品と
いうことになろうか。

しかし、まだまだCMなどでは匿名性の高さ故、逆にBGMとして主張しない上
自動車の疾走感と彼の楽曲のライトなソウル感がぴったりフィットしていた
という理由のほうが大きかったかも知れない。元々CM用のジングルで稼いだ
時期も有った訳だし。


「山下達郎&竹内まりや夫妻 70's〜90'sCMコレクション 」


一人アカペラなどの才能も生かしてこれだけCMに絡んでいたのかと
唸らされる映像。しかも夫婦でこれである。単に商品CMだけでなく
本人のアルバムの宣伝なども含まれている。これを保存していた方も
凄いとしか言い様がない。ある意味永久保存物だろう。
ヒットしてから自動車での起用がグンと増えていくのがわかる。
勿論JR東海"Xマス・エクスプレス"のCMも収録されている。


彼が世間的にも一気に認知されるのは89年のJR東海におけるCM
「クリスマス・イブ」からなのではないかと僕は考えている。

どちらにせよ、本作は80年代前半から続いていた『FOR YOU』「RIDE ON TIME」
「高気圧ガール」らのヒットにおける注目度の中で製作されたであろう一作だが
実際の所は録音にせよ作風にせよ大きな転換期を迎えつつ有る中で制作された
アルバムと言って良いだろう。特に録音に関しては本作から本格的にデジタル
レコーダーやPCを利用した打ち込みMIDI音源によるシーケンスを導入したのだが
それらが望むような音質や打ち込み精度を得ることが出来ず、録音の完了に
手間取り、アルバム発売日を延期するという自体にまで陥っている。

当時のPC環境はNECのPC-8801シリーズのような8ビットパソコンを
利用していたようで、これがかなり言うことをきかなかったようである。
本作録音の最中にPC-9801のような16ビット機も出てきていたのは当時僕も
自宅に音楽用ではないがNECのPCを置いていたので覚えているが、そういった
移行期の中で達郎さんは相当苦労していたようである。そもそも9801シリーズ
と言ったって、その後のPCとは思い返しても隔世の感すら有るので大変だったと
思う。また、デジタル・レコーダーも当時はマスタリングの際における音質が
低かったようで、デジタルで広がるはずのレンジも出ないような状態だったようだ。

確かにこれに関わらず当時の録音物を今聴き返してみると、何だかノイズとかは
少ないのかも知れないが、何となく曇ったような音質のものが多く、これなら
多少のヒスノイズなどは有るにしても、70年代のアルバムのほうが、
テープ・コンプレッション等による中域の充実も重なって迫力のあるサウンドに
聴こえるような気がする。ま、一概では言えないだろうけど。

そもそも86年当時ではCDは出てきていたが、まだ主要メディアがレコードや
カセットテープなどのアナログ・メディアだったのも事実である。

結局リリースが延期になる程の制作過程における苦闘は作品にも現れており、
いくつかの楽曲では実験的なアプローチも聴かれ、本人もサウンド的には
「試作品」と言うようなニュアンスの談話を残しているので、そういった意味でも
「高気圧ガール」や後に大ヒットする「クリスマス・イブ」を収録した
前作『MELODIES』や、デジタル・レコーディングやシーケンスを会得した感のある
『僕の中の少年』に比べても全体的に地味な印象は拭えない。

ジャケットも何だか地味である。可愛らしいが、本人が写ってない上、
何だかその辺りのコンピレーション盤のような匿名的なジャケットなのも
後に彼を追って聴くような人間にとっても地味な印象を与えている。

僕はアルバムジャケットというのはとても大切だと考えている。
サウンドを思い出す時に、ジャケットを思い出す時が有ると思う。
そんな時に冴えないジャケットデザインや色味だと、まるでその印象が
楽曲に乗り移ってしまうように感じるからだ。
例えば『サージェント〜』なんて、あの強烈なコンセプト感のあるジャケが
アルバムをより強烈な印象にしているのは間違い無いだろう。それを証拠に
あのアルバムは楽曲単位で捉えると、彼らにしては(あくまで彼らにしては、だ)
地味な物が多かったりするのである。

最も『ペット・サウンズ』のように、ジャケとしてはある意味アイドルグループの
それとしては普通であっても、余りに内容が凄いので、あのジャケを見ると
名作にしか見えなくなってしまう物も世の中には存在するのだが。

楽曲にも触れておくと、アルバムの最初を飾る「土曜日の恋人」は
オレたちひょうきん族のエンディング・テーマとなった楽曲。
聴き覚えが有るという人も多いかも知れない。EPOの「DOWN TOWN」や
本人の古い曲「パレード」が起用された事を受けて新曲を書き下ろし
自らひょうきん族のスタッフに売り込んだらしい。なるほど
確かに「DOWN TOWN」を80年代当時に蘇らせたようなテーマである。

中々に良い曲なのだが、思ったよりヒットしなかったようである。

タイトル曲でもある「ポケット・ミュージック」は何とも中途な感じの
作品なのだが、僕はこの曲がアルバムの中でもかなりお気に入りである。
本来打ち込み用に用意された楽曲であったが、上手く行かなかったようで
結局上原裕と伊藤広規のドラムとベースによるテイクなのだが、
それがまるで打ち込みのビートをなぞったようなかなりミニマルな
リフの繰り返しで、でもそのミニマルなリズム隊とアコギ、最低限の
キーボードで淡々としている感じが人力シーケンスのようで悪くないのである。

「MERMAID」は全面にシンセサイザーやMIDI演奏によるエレドラムを
採用したこの時代の音がする曲。Rolandのデジタル・ドラムをPCに
プログラミングして叩かせたのではないかと思われる。ドラムの音は
今のエレドラムやDTMのサンプラー音源では聴けないような音がしている。
しかし、アラン・オデイによる英詩にのる軽やかなメロディが悪くない。

「メロディ、君のために」は80年代の彼の作品で良く聴かれる
ポップな曲に伊藤広規のドンシャリなチョッパー奏法を多用したベースが
乗る楽曲である。これも近年では余り聴かれないミドルハイを多用した
ヴォーカルを含めて中々心地よい楽曲である。

「THE WAR SONG」は彼にしては珍しいポリティカルな作品で、
当時首相だった中曽根康弘が日本をアメリカの前線基地のようであるかに
例えた「不沈空母」発言を受けて書かれたものようである。
この作品辺りから詩作が明らかによりパーソナルに入り込んだ、
ラブソングの範疇から離れたような作風が増えていくのだが、
これはその中でも異例の一つと言って良いだろう。

全く個人の意見として、僕は達郎さんに政治や社会的な歌を歌って欲しくない
という気持ちが有るので複雑であるが、サウンド的に捉えると、いかにも
80sな音のシンセサイザーはともかくとして、彼にしては珍しく中途な
コードでブレイクする辺りのメロディとバックのタイトで切迫感の有る
演奏は悪く無いと思う。特にライブ・アルバム『JOY』におけるバージョンは
タイトである。

「シャンプー」はアン・ルイスに提供した楽曲のセルフ・カヴァー。
女性言葉の歌詞を男性が歌うのが結構僕は好きなのでお気に入りで、
ソウル・バラードを少しねちっこく歌うヴォーカルも秀逸。

タイトルからしてロマンティックな「ムーンライト」はファルセットを
中心とした美しい小品と言った趣向で。ここでは打ち込みによるサウンドが
こじんまりとまとまっていて、本作の中で最もデジタル・サウンドとして
完成しているような気がする。こういう作品で彼の作品に外れなしである。

「風の回廊(コリドー)」は当時スポーツ・クーペとして大ヒットした
ホンダ・インテグラのCM曲として使われた楽曲で、車が大好きだった
少年時代の僕の思い出の一曲として残っていたので、大人になって
ベスト盤で久々にこの曲を聴いたとき、少し郷愁に浸ってしまった。
ちょうど"思い出へと続く心の回廊"というテーマもぴったりである。
そういう意味で特別な一曲。彼の曲でも1、2を争う大好きな曲である。

Aメロの美しさの割に、実はサビらしいサビのない、この当時にしては
少し珍しい作曲だったりするのだが、それが噛み締めるほど良くなる
名曲である。ここでは打ち込みも曲にフィットしている。

こうして振り返ると、"中々に良い"とか"悪くない"という言葉が多く
出るのだが、僕にとってこのアルバムは聴けば聴くほどやっぱり良い作品だなと
感じているし、名作とまでは言わないのかも知れないけど、佳作なのは
間違い無いと思っている。今聴くと80年代的な音が結構するのだけど
それも次作『僕の中の少年』程ではないのでかえって聴きやすかったり。

最もデジタル機器と格闘しながらも結果として"山下達郎"という一人の
人間の暖かみを感じるこのアルバムは、忘れてしまうには勿体無い
作品だと思っている。

結局このアルバムのマスタリングには余程納得出来なかったのか
91年、このアルバム発表後5年という所でリミックスしなおして
再リリースしている。これは近年良くある最新のデジタル技術での
リマスタリングとかリミックス以前の時代における話なので、
単純に作品として納得いかずお色直ししたかったのだと思う。

その際にボーナスとして収録された「MY BABY QUEEN」が中々良い
曲だったりする。

一聴で引き込まれるようなキャッチーさや突出した楽曲やアレンジが
聴かれない"悪くなさ"こそがこのアルバムの特徴で、時折引っ張り出して
耳にすると、やっぱり変わらずに、むしろ聴く度に発見のある噛み締める
ようなこの作品は、達郎さんの名作をある程度聴きこんでから立ち寄って欲しい
そんな作品である。


「シャンプー」 アン・ルイス

アン・ルイスのバージョン。元々歌唱力の高い彼女のテイクも悪くない。

こうしてレビューを書こうと思って始めた当初、僕はやっぱり大人になって
改めて達郎さんに凝りはじめてから衝撃を受けた70年代やRCAの作品を紹介
しようと思っていたのだが、レビューのためにアルバムを聴き返していると
30代も半ばを過ぎた僕には何故だか80年代以降の作品の完成度の高さに
段々心を惹かれるようになってきている事に気づき始めた。

商業音楽としてのキャッチーな完成度の高さ、それでありながら音楽の深みは
しっかりと保っている楽曲。結局ポピュラー・ミュージックと言うのは
人にも感じ取ってもらって、ある程度商業的な成果を残せるものが正しいと
僕は個人的に考えている。そういう意味で「ライド・オン・タイム」以降の
彼の作品というのは普通に聴いても耳に残る良質なメロディだし、その
作曲というのは理路整然としていてとても合点が行くものなのである。

技巧は有っても奇をてらわない、ニーズに合わせてもベースはブレない。
そういう事って誰にでも出来ることではなく、職業作曲家としての
彼の才能というものを端的に表しているのだと思う。

時代の先を行き、ストイックなほど己のソウルを突き詰めていたソロ初期も
凄いの一言に尽きるのだが、時代がそれを理解できるようになって、自らも
時代に寄り添うようになった80年代以降を"日和った"というのは余りに
パーシャルな見方で、この美しい作品を見落とすのは勿体無い話である。

最も最近僕がそれを感じるようになったのは、僕が今30代半ばを過ぎて
彼がこれらの作品を出していた頃の年齢に近づいたからかも知れない。
誰しも若い頃のほうが物事を斜めに考えるものである。
そういう部分が自分からも少しづつ無くなってきているのは間違い無いだろう。

まだ続く、かな。。結構レビューは久々に書くとパワーを使うので
そろそろ一旦休みになるかも知れない。またライブに行けば色々
書きたくなるだろうから。


posted by cafebleu at 01:47| 東京 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 山下達郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
達郎さんのアルバムレビュー拝見しました。すごく面白かったので、全てのアルバムレビュー書いて頂けたら嬉しいです。
Posted by タッキー at 2019年06月29日 04:09
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