2012年09月29日

高野寛 Live at VACANT Harajuku 2012.9.27

"肩肘を張らないことにこだわり続ける姿勢と裏原宿から聴こえた90年代の残り香"

さて、秋も少しづつ深まり始める中、そんな季節にふさわしいと
思えるような温かみの有るライブを行った高野寛さんの話を。

実は8月24日に吉祥寺キチムで行われた"高野寛+伊藤大助"のライブにも
行ったのでその時にレビューを書こうと思ったのだが、残業が思うよりも
長引いた上、当日飯田橋に居たのでそこから急いで吉祥寺まで向かったものの
残念ながら開演から1時間近く遅れてしまい、余り全貌までは捉えられなかった
のでそれで一回分を埋めるほどの情報を得れなかった。

その後、今度は彼のソロ名義でのライブが原宿VACANTにて有るのを知ったので
今回は地理的にも近いし、オフィスでの仕事だったので何とかデスクワークを
調整して平日の18:30という中々ストイックな開演時間にも間に合わせることが出来た。

僕はVACANTに行ったのは初めてだったのだが、相方によるとここは元々DEPTだった
所のようで、今はライブスペース+ギャラリーと言ったような、如何にも裏原宿や
表参道らしいアート・スペースといった趣の様子。

ミュージシャンのライブも時折開催されているものの、メインストリームからは
一歩も二歩も距離を置いたような、そんな一筋縄では行かない人たちが出演している。

高野寛さんの近年のスタンスというのは基本的にライブハウスやホールでライブを
演ると言うよりは、こういったギャラリーで有るとか、ライブも出来る洒落たカフェなど
が多くて、それは8月のキチムでもそうだったし、その間にゲストとして出演した時も
渋谷の伝説的ロック喫茶、『BYG』でのライブだったりした。

僕は彼を「虹の都へ」で知った典型的な世代なので、そういう意味では彼がアリーナで
やっていた時代も知っている訳だし、高橋幸宏に見出され、トッド・ラングレンに2枚も
プロデュースされているという経歴からも、ポップ・ミュージシャンとしては明らかに
エリートな彼とこんなに近くで気軽にふれあえるものなのかと
未だ良い意味で腑に落ちないで居る。

さておき、ライブはふらっとカリンバを手にしながら登場し95年の名作『Sorrow And Smile』
収録の「On And On」からスタートした。うーん、サブカルである。

その後アコギを持ち最近亡くなったバート・バカラックの作詞パートナー、ハル・デイビッド
の追悼として、「Me, Japanese Boy」を披露した。英語の曲が苦手なので余り歌わないと
言っていたが、十分に美しい発音だし、バカラックの難しいコードをさらりとギター一本で
弾き語ってしまう辺りに彼の器用さを感じるのである。ハーパーズ・ビザールで有名な
曲なのでこれもサブカル的である。

その後途中からパーカッションとして近年のアルバムでドラムを叩いている宮川剛さんも
加わり、引き続きカバー多めで進行していく。

途中カエターノ・ヴェローゾのカバーなんかも演る辺りはやっぱり90年代的サブカルチャー
を強く感じたし、僕もそんな時代を過ごしてきた人間なので何となく時が少し戻ったような
そんな感じを受けながら暖かい感じでライブは進行していった。

オリジナルでは現時点の新作『カメレオン・ポップ』から「君住む街へ」やFacebookでも
公開していた残暑の気怠さを表現したような新曲「ここでサヨナラまた明日」などの他に
過去の代表曲とも言える「Blue Period」「虹の都へ」やデビュー曲
「See You Again」なども演奏された。勿論?裏原宿サブカルチャーが良く似合う
アンニュイな「相変わらずさ」も演奏された。

「Blue Period」はオリジナルだとかなりキーボード主体の音作りなのだけど、
アコースティックにコードを鳴らすとまた響きも異なってくるし、やっぱり彼は
シンガー・ソング・ライターなんだなと思ったりもした。

途中ヴァイオリン奏者の方も加わって名曲「夢の中で会えるでしょう」を披露した辺りで
観客の雰囲気はピークに達した感じだったかな。やっぱりこの曲は凄い曲。
何か100人に満たない会場でサラッと本人に披露されるにはある意味名曲すぎるような
感じがするのである。ここではヴァイオリンでリフのメロディを奏でていたのも良かった。

本編のラストはこちらも評価の高い『確かな光』収録の「美しい星」のアコースティックな
バージョンで終わった。その後アンコールではタイトル曲「確かな光」も披露された。
「美しい星」は8月の"高野寛+伊藤大助"でも演奏されていたのでやっぱりこの曲は
特別な曲なんだなと改めて思ったり。

アンコールでは定番「ベステン・ダンク」等を披露しつつオーラスにはファンに
「ガット・ギターも弾いてよ」と促されて
(当日ガット・ギターも置いてあったがここまで使っていなかった)
初期の名曲「夜の海を走って月を見た」を弾き語りで披露して終演。

他にもモンキーズ(むしろ忌野清志郎が率いたタイマーズかな)やボブ・ディランの
カバーも有ったけど、全体ではそんな感じの進行だったかなと。

個人的な感想だけど、カバーも勿論ミュージシャンの人となりと言うかルーツや
興味を知る上でとても大切だと思うのだけど、高野寛さん程活動歴も長いと
良質なオリジナルでありながらも中々陽の目を見なくなっている曲も少なくないので
もっとオリジナル中心でも良いかななんて思ってしまう。

「やがてふる」「友達について」「一喜一憂」「Our Voice」「Time and Again」
「迎えに行くよ」「君といたいな」「フルーツみたいな月の夜に」「Everlasting Blue」

ぱっと思いつくだけでシングルや有名曲でなくてもこれだけ素敵な曲が出てくる訳だし。

威光を発するようなスタイルではないし、先述の通り近年は会場もライブハウス的な
所よりはカフェやギャラリーのようなところでの演奏が多いので、特別な照明が有るとか
ステージが高いと言う訳ではなく、そのまま同じ目線で観るような感じだった。

事実ドラムセットなんかもなくて、近年彼の作品でドラムを叩いている宮川剛さんの
器用なパンデイロやキックシンバルとかがかなりのアクセントになっていたけど
基本は愛用のハミングバードを抱えたアコースティック形式だから距離も近かった。
(最も席の置き方は最悪で、高野寛さんが立ち上がったらPAスピーカーの死角になり
全く見えなかったのはいくら同性でヴィジュアルだけ追いかけている訳ではない僕でも
へこんだけど。こういう所はやっぱり市民ホールとかのほうが見易いなとか思ったり。。)

それでもやっぱり彼を間近に感じられるのは、90年代から彼を知っているものとしては
何だかおいしいような、有難いような気持ちにさせてくれる。

この日はサイン会も有ったので実際アルバムにサインもしてくれて、握手もしてくれた。
僕は普段は相手を遮ってでも口から屁理屈が出るタイプ、特に音楽の時は。
でもね、この握手の時に一杯質問してみたいことが有ったのだけど、本人を前したら
頭真っ白というか、中学生の時『CUE』で彼を知ってからの時間がフラッシュバックして
「20年ファンです」って言うのが精一杯だったわ。ファンってそういうもんなんだね。

でも若いし細いし、男が見ても良い歳の重ね方してるよ、高野さんは。

比較的リアルタイムで追っていた時期や、少し離れた時期も有るのだけど
せっかくの縁でまたここ2ヶ月で2度も観る機会に恵まれたので、これからも
ちょくちょく顔を出させてもらおうかなと思う。

またライブハウスでバンドなんかもやってほしいな。彼のエレキギターも
素晴らしいのだから。

あ、エレキといえばエレクトリックシタールの名手でも有るね。
これもいつか見てみたいな。


「僕が言えることすべて」 浜崎貴司・高野寛

フライングキッズの楽曲もさる事ながら、高野寛さんのシタールとコーラスも名演。
posted by cafebleu at 02:37| 東京 ☁ | TrackBack(0) | 高野寛 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年09月17日

The Big 3 (90年代UKポップ特集その3)

"聴いた瞬間、ジャムっぽいと解るネオ・ネオ・モッズのド真ん中"

『The Big 3』('96) 60ft Dolls(60ft・ドールズ)



さて、せっかくUKポップ特集として続けているのだから、心に残っているバンドをと
思って色々聴き返したり、自分の10代後半から20代前半の思い出を辿ってるのだけど
ブラー、オーシャン・カラー・シーン、ドッジー、ティーンエイジ・ファンクラブ
辺りまではやっぱり鮮烈な記憶で、ある意味アンチだったけどオアシスだって
随分良い曲を残してくれたと思う。

僕は典型的モッズなんでブラー、オーシャン、ドッジー、ウェラーは忘れることは無いけど。

他にはブー・ラドリーズとか前回取り上げたキャスト、そして愛らしいキャラで
人気が高かったスーパーグラス辺りも思い出す。あ、アッシュとかも日本では
人気高かったな。パルプもいたね。苦手だったけど。

後はハイプの匂いもプンプンしたけど、それがある意味象徴的だったメンズウェアや
ブルー・トーンズ(オアシスに代わって全英1位まで取ったけど)、ブームの後半に
大ヒットしたクーラ・シェイカー辺りまでは印象に残ってるかな。

後はブリット・ポップそのものとは言えないけど、そのブームに巻き込まれるように
もしくは乗じてヒットしたり、横風を受けた作品を発表したミュージシャンも
多かったと記憶している。

その最たる物がモッドファーザーと崇められたポール・ウェラーだったり
その時期に久々アトラクションズを再始動させ、ビートルズのアルバムで有名な
ジェフ・エマリックをプロデューサーに立てて『オール・ディス・ユースレス・ビューティー』
という珠玉のメロディを紡いでくれたエルヴィス・コステロとか忘れちゃいけない
元祖ブリット・ポップ、スティーヴン・ダフィもこの頃にはかなりカラフルな
ポップ作品をリリースしてる。元祖ブリット・ポップならライトニング・シーズこそ
そうだよね。フットボールの応援歌「スリー・ライオンズ」は過去にここで取り上げてる。

更に言うならブリット・ポップと言うよりはUK版ヴィジュアル系(ネオ・グラム・ロックかな)
とも言えるスウェードがブームの最中に発表した『カミング・アップ』は耽美的な中にも
かなり明朗でキャッチーなポップが炸裂する異色の名作だったりもした。
スウェードはそんなに好きじゃないって人でもここからのシングル「トラッシュ」は
悪くないねって人、居るんじゃないかな。僕は間違いなくそういうタイプ。

そんな風にブリット・ポップ・ブームとは単にド真ん中のミュージシャンだけが
活躍したわけではなく、むしろ脇を固めたベテランや既にメジャーだった他の
ミュージシャンにも少なからず影響を与え、彼らも良い仕事をしていたりするのである。

いや、むしろ彼らの作品の方が良いくらいかもしれないし
そちらのほうが印象に残っていたりするのである。

でも、いきなりそれを取り上げてしまっては元も子もないし
少し15年前の自分を引っ張りだして、何聴いてる?って
何度も問い質してみれば、忘れかけていても思い出せるものが有るかも知れないから。

という訳で相変わらず前置きが長いが今回は60ftドールズである。

名前からして少し狙い過ぎな感も有る彼らだが、サウンドもそのままである。
説明するよりもこの音源を聴いてもらったほうが早いだろう。


「Stay」('96)

どうだろう、ルックスやサウンド、そしてヴォーカルまでジャムを想像せずには
居られない雰囲気満載である。ちょっとラトルズ並にジャムっぽい。

最初に「僕はモッズに絆されたクチなので、そういうバンドが思い出深い」と書いたが
その割に60ftドールズ、ちょっと思い出すのに時間がかかった。

でも良く良く思い出してみると、確か渋谷の東急プラザのCD屋に置いてあって
そんな所では普段余りCDは買わなかったけど、少し気になって悩んだ挙句購入した
事まで思い出した。覚えているものだね、そういう事って。

ある意味ダイレクトなバンドなのだから、当時からもっと気に入っても
おかしくないような気がするが、当時の自分はモッズにははまり込みつつも
実はジャムが余り好きじゃなかった。ジャムだけでなく70年代のネオ・モッズは
好きじゃなかった。実は今でも余り好きじゃない。

確かにジャムのファッションは大いに参考にしたし、ポール・ウェラーなんだから
嫌いってのはおかしな話だけど、スモール・フェイセズでモッズを知った自分には
パンクの影響も強いネオ・モッズは少し青過ぎて、ちょっと苦手だった。

スモール・フェイセズから70年代のフェイセズやハンブル・パイ、もしくはスリム・チャンス
のように彼らはルーツを匂わす路線に進むわけで、そういう意味では直接当時から
モッズとは異なるフリーなんかもそういう路線だった。

僕にとってモッズというのはそういうサウンドを咀嚼してもモダンで有るという世代で
それを一番体現していたのは誰あろう90年代のポール・ウェラーであり、その舎弟に
あたるオーシャン・カラー・シーンもそうだった。彼らはファッション的にはモッズでも
その実はより70年代のルーツ・ロックに傾倒したようなサウンドだったので、僕は
そういう物にモッズを感じ取っていた。ザ・バンドだってクールでモダンだという感じ。

上記に当てはめれば、ジャムよりスタカンのほうがむしろモッズであると思える。

そんな世代なので、僕にとってネオ・モッズは青くてパンクでしんどいものだった。
さすがにジャムは楽曲の格が違うので、今では普通に好きだけど、もうネオ・モッズの
B級バンドは聴かないし、聴きたいとも思わない。

だから僕は2トーンにも思い入れが無い。スカが苦手なのである。
スカやロックステディが苦手なモッズはモッズじゃないと言うなら僕はモッズじゃないだろうし
そう言われても全然構わない。要は自分がどう思うか、それをどう具現するかが問題なわけで。
まぁ具現も何ももうフレッドペリー以外のポロシャツを買わなくなってから20年以上
経ってしまったし、厳密にはモッズは若者の物だと思うので、
モッズとは何ぞやを論じる世代でも無いし、その気も無いのだけど。
ただの被れな中年で結構。

でも僕は未だドクター・マーチンの10ホールとMINIに憧れているけどね笑。

さておき、上記の理由できっと60ftドールズは逆に少し忘れかけていたのだろう。
オーシャンみたいに骨太路線か、ブラーみたいにキンクスがベースの振りして
ポップの玉手箱みたいな感じが、当時の好みだったんだろうな。

で、今改めて聴いてみると、期待してた以上に良いな、と(笑)。
もうブリット・ポップと言うよりはジャムへのストレートな愛情を示した
ネオ・ネオ・モッズという狭いくくりなんだろうけど、90年代らしく意外に
メロディが練られてるんだよな。

このサウンド、ちょうど10年後くらいに"ネオ・ブリット・ポップ"として流行った
オーディナリー・ボーイズに似てるような気がする。
彼らの方がXTCとかも聴こえるのでもう少し幅はあるけど。

どれもネオ・モッズ(ジャム)へのオマージュとして捉えれば中々良い出来栄え。
少しジャムよりメランコリックなのが特徴かな。アレンジはシンプルに行くしか無い
バンド構成な分、楽曲自体は意外と展開が考えられていたりとか。

それは楽器のチョイスにも現れていて、普通こういうバンドならリッケンだろうという
ギターやベースが普通にギブソンES-335とフェンダーのプレシジョンベースだったりする。
こういう所、90年代のモッズって現実的なチョイスするんだよな。良い楽器がそこそこの
値段で世間に流通した時代だから、無理やり無茶なチョイスしないというか。

実際演奏も結構良くて、3ピースとネオ・モッズ的世界観を荒々しくもパワフルに
表現してたんだけど、実際はもっと上手いけど敢えてラフに的な計算も感じる。


「Pig Valentine」Live at Club Quattro Shibuya 96/9/11

何と、彼らの日本公演映像が残っていた。上げてくれた主に感謝である。
96年のクラブ・クアトロのライブ。この頃は毎月のようにUKのポップ・バンドが
ここでライブをしていた。僕にとっては青春の場所のように感じる。


比較的コンセプトもサウンドもしっかりしてるので、ブームの最中ということも
有ったのでもっと売れても良かったような気がするのだが、3枚目のシングル
「トーク・トゥ・ミー」がベスト30に滑りこんでスマッシュ・ヒットになったまでは
良かったけど(僕もこの曲で彼らを知った)、それが彼らの最高位で、続くアルバム
『ザ・ビッグ3』も36位止まりだった。何かモッズのくせにこのアルバムタイトルは
無いなと思うので、こういう最後の詰めの甘さがコアなファンも増やさなかったのかも。


「Talk To Me」('96)

これも久々、本当10何年ぶりに聴いたけど、結構青春マイナー系モッド・ロックって感じで
良いなぁ。このバンドよりくだらないバンドは一杯居たのでもっと成功しても良かったと思う。


98年の『Joya Magica』ではこの手のバンドらしく順当にサウンドの幅を広げ、全米ツアーの
オファーも受けて、メジャーでなくとももう少し幅広く活動していくのかと思ったのだが
ツアーをキャンセルして、そのまま分解状態。解散したのかも良くわからない。




「Back To The Summer」('98)

2ndアルバムから。
シャッフルとホーン、ちょっとカラフルさも身に着けて、UKポップとしては
順当な成長を遂げているし、良い曲を書いていたと思う。


この頃になると、マネジメントで揉めていたのか、日本盤のリリースは先行と言われていたのに
中止になったり(結局後にリリース)、マネージャーが居なくなったとか、そういう面倒を
見てくれる人材にも恵まれていなかったかと思う。

スーパーグラスやアッシュと張り合えるくらいの能力やルックスは持っていたのに残念だ。
でも、僕も決して熱心なファンとは言えなかったスーパーグラスやアッシュと比べても
記憶から半ば消えていたので、やっぱり残れない何かが有ったのかな。

因みにジャム直系のネオ・モッズ・サウンドでは有るけど、彼らの出身は
ゴーキーズ・ザイゴティック・マンキやスーパー・ファリー・アニマルズのような
ヘンテコポップバンドを生み出したウェールズ出身だった。

ちょっと玉石混交の洪水の中で、埋もれちゃったかな。
ジャム系のネオ・ネオ・モッズとしては今聴いても優秀なバンド。
好きな向きにはオススメ。
posted by cafebleu at 01:05| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 60FT Dolls | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年09月09日

山下達郎 シアターライブ PERFORMANCE 1984-2012

"予想通り非の打ち所が無いライブ音源と、予想を遥かに超える貴重な映像の数々"

山下達郎『シアター・ライブ PERFORMANCE 1984-2012』



いくら臨場感が有る映画館のライブ上映とは言っても、実際のライブの4列目とかで
達郎さんの姿を拝んでしまった自分としては、はち切れるほどの期待をしていた訳
ではなかった。変わらず健在だったPerfomance2011-12ツアーを思い出しながら
軽い気持ちで大きな画面と優れた音響の有る映画館でライブ音源を楽しめればと良いと。

しかしながら、実際の映像と音源はこちらの想像を超えるもので、日曜の夜、
憂鬱で次の日が気になるひとときと言うシチュエーションを忘れて楽しませてもらった。

感想から先に始めたが、8/25より1週間限定で山下達郎さんのシアター・ライブが
全国で上映された。音源や映像は"PERFORMANCE"と題され彼が行なってきたライブツアー
からのもの。

彼のライブ音源としては既に名盤の誉れ高いライブ・アルバム『JOY』('89年)が有り
こちらは1981年〜89年までのライブ音源をまとめたもので、ファンなら大概の者が
手にしている作品と言えるだろう。

しかしながら、これも有名な話だが、彼には映像作品というものがオフィシャルには
全く存在しない。これは80年代以降に活躍しているミュージシャンとしては稀な話である。

だからシュガー・ベイブ時代のTV出演を除いては僕の知る限りではTV出演すら無い。
80年代当時はベスト10のような音楽番組も複数放送されていたし、ヒットスタジオの
ような番組も有ったのだが、そこでランクインしても彼が出演することは無かった。

唯一の例外が92年頃アルバム『アルチザン』がレコード大賞を受賞した時に
電話!で受賞のコメントを述べて、そこで「さよなら夏の日」の本人プロモが流れた事は
有ったが、何れにせよ本人が受賞に登壇した訳でも、楽曲の演奏を行ったわけでも無かった。

これには本人の思想やプロの音楽家としての戦略など様々な理由が有るのだろうが
それにしたってあれだけライブが凄いのにライブDVD一つも無いのは不自然ではある。

そもそも音源としてのライブ・アルバムですら1989年の『JOY』以降は正式なリリースは
無く、熱心なファンはシングルのB面に入っているライブ・テイクや彼がDJを務める
『サンデー・ソング・ブック』における本人のライブ特集で小出しにされながら、
ツアーの度に噂になったり、本人も口にする「Joy2をそろそろ出そうかな」的な話に
期待させられて早23年も経過しているというのが現状だったりするのだが。

そういう切望感の中シアター・ライブが決まり、僕もライブ音源を丸々映画館で
鑑賞したことが無かったので一つの楽しみとして鑑賞しに行く事にした。

しかし、このシアター・ライブの問題はチケットの販売方法で、先ず前売り券を
ワーナーから購入すると、印字ではないちゃんとした鑑賞券を入手できるのだが
これがクセモノで、この鑑賞券を上映映画館で指定席に変えてもらわないといけない。
しかも引換可能なのが上映開始の2日ほど前にようやく上映スケジュールがリリース
される勿体ぶりで、ギリギリでようやく何時の回なら自分は都合が合うかなどを
考えられるわけ。

普通にサラリーマンでそこそこ忙しい人間なら、平日新宿だの桜木町だのに仕事帰りに
寄って指定席をゲットして、そして二日後にもう一度映画館に赴いて実際に観るなんて
行動がどれだけ負担になるのかレコード会社や配給先は考えたことが有るのだろうか。

僕は東京近郊の公開劇場だった2つの映画館(新宿バルト9、桜木町ブルク13)には共に
向かえる距離ではあったけど、仕事の行き帰りには全くかすらないので事前に
指定席を取りに行くのは難しい。よって当日少しだけ早めに行けば良いかなくらいに
考えていたが、この目論見は見事に撃沈し、日曜20時過ぎの新宿バルト9の回には
現地まで行ったのに「もう空いてないです。後は26:30からの回が空いてますが。。」と
言い放たれて一度目のチャレンジには失敗した。普通に考えて月〜金に働いてる
サラリーマンの何処に日曜(明けて月曜)夜中2時から映画を観れる余裕があるんだと
叫びたくなったが、無いものは無いんだから仕方無い。

その後2日だけ延長の発表が有ったので、日程スケジュールに土日にもう一度かかることが
判明し、今度は新宿より余裕が有る様子だった桜木町のブルク13まで先に指定席を取りに行って
ようやっと映画まで漕ぎ着けたのである。

映画館の前売りなら印字券では有ってもネットで指定席を予約できたようで、これだったら
最初からワーナーの前売りなど買う必要が無かったし、少し安いとかそういうのはこんなに
何度も映画館に行っていたら交通費でとっくに相殺か損してるわけだから酷い話である。

せっかく熱心なファンが足繁く作品を楽しもうと忙しい中工面して出費してるわけだから
その辺りは今後是非とも改善してもらいたい事項として苦言を呈させてもらう。
映像を簡単に解禁しないと言う事自体は音楽家としての考え方の一つだろうから
それはそれで致し方ないのだけど、その待望感を知ってか雑に展開しても客は集まるだろう的な
レコード会社や映画の配給会社にはウンザリである。

さて、内容だが、それ自体は至ってシンプルなコンセプトで、山下達郎さんのライブを
80年代から2012年までダイジェスト的かつベスト的にまとめた映像作品である。
特に合間に独自映像が入るとかそういう事は無く、通常のミュージシャンであればDVDとして
発売しても何ら不思議の無い純粋な"ライブ・ダイジェスト"と言ってしまって良いだろう。

ダイジェストと言っている理由としては、ライブ特有の長尺なインストやヴォーカルの
パートは一部省かれているためだ。専らその理由はどちらかと言うと映画上映の尺に
合わせたからという推測が出来るので、もしこれがDVDとかならそのまま収録
されたかもしれない。

それでも各曲のコアな部分はしっかりと収録されており、不満の残る編集ではない。
選曲自体は言い出したらキリがないのだが。。。

実際の選曲は以下の通り。

01)SPARKLE
1986.7.31@中野サンプラザホール(PERFORMANCE '86)
02)LOVELAND, ISLAND
1986.10.9@郡山市民文化センター(PERFORMANCE '86)
03)メリー・ゴー・ラウンド
1985.2.24@神奈川県民ホール(PERFORMANCE '84-'85)
04)SO MUCH IN LOVE
1986.10.9@郡山市民文化センター(PERFORMANCE '86)
05)プラスティック・ラブ
1986.7.31@中野サンプラザホール(PERFORMANCE '86)
06)こぬか雨
1994.5.2@中野サンプラザホール(Sings SUGAR BABE)
07)煙が目にしみる(SMOKE GETS IN YOUR EYES)
1999.2.4@東京・NHKホール(PERFORMANCE '98-'99)
08)ずっと一緒さ
2008.12.28@大阪フェスティバルホール(PERFORMANCE 2008-2009)
09)DOWN TOWN
2008.12.28@大阪フェスティバルホール(PERFORMANCE 2008-2009)
10)希望という名の光
2012.4.1@神奈川県民ホール(PERFORMANCE 2011-2012)
11)今日はなんだか
2010.10.27@神奈川県民ホール(PERFORMANCE 2010)
12)アトムの子
2012.4.30@大宮ソニックシティ(PERFORMANCE 2011-2012)
13)RIDE ON TIME
2012.4.30@大宮ソニックシティ(PERFORMANCE 2011-2012)
14)恋のブギ・ウギ・トレイン
2012.4.30@大宮ソニックシティ(PERFORMANCE 2011-2012)
15)さよなら夏の日
2010.8.14@石狩湾新港樽川埠頭横 野外特設ステージ(RISING SUN ROCK FESTIVAL 2010 in EZO)


選曲としては比較的王道と言うか、ある程度彼の作品を知っていたり
ライブを観たことが有るのなら解りやすい構成といえるだろう。

正直に言うと、ライブの定番である一人アカペラやオーケストラ物
(バックに自分のハーモニーやオーケストラをカラオケで流すやつ)
こういう作品では割愛してストイックなファンキー・チューンを増やしても
良いのではないかとは思うのだけど、初めての映像作品では有るので
そこは有難く鑑賞させて頂くとして。。

先ず驚いたのが動く達郎さんの映像がしっかりと残っていることだった。
彼が映像作品を好まないのは随分昔から有名な話で、実際僕が観に行った
3回のライブでもカメラクルーが入っていた記憶もなく
(実は同行していたモダプロ・リーダーはその内の1日にカメラが有ったと
言っていた。どうも僕はステージに気を取られすぎて気付いてなかったらしい)
PAの録音は毎度していても、映像には興味が無いのだろうと決めつけていたのである。

だから当初このシアター・ライブも
「もしやライブ音源に合わせて写真とかがスライドショーのように出てくるのでは?」
と不安な気持ちになっていたのである。

そんなモノだから、特に80年代の映像がこれ程しっかり残っているとは思いもしなかった。
しかもその多くは『Joy』に収録されたテイクだったというのも驚きであった。

上記の通り80年代の音源の殆どは『Joy』収録のテイクと同一の物であったが
映像が乗ってくると印象もまた変わるもので、例えば軽やかな楽曲として知られる
「ラブランド・アイランド」辺りの実際の演奏時のテンションたるや半端ではないし
ファンクと言って良い「メリー・ゴーラウンド」の緊張感は観てるこちらにも
ヒシヒシと伝わってくる。やっぱり改めて80年代の
青山純、伊藤広規、椎名和夫で編成されたバンドは最高だったし、
あの年齢や時代でしか成し得ない笑顔一つ許さないようなミュージシャンシップの
対決を聴いているような様には痺れるとしか言い様がないのである。

映像では大体時系列的にライブ映像が進んでいくが、80年代のライブの後は
94年のシュガー・ベイブ全曲ライブでの「こぬか雨」を挟んでいきなり2000年代
後半のライブが主となる。

ここには比較的名演が多い"PERFORMANCE'98-'99"からの映像
(例外的に「煙が目にしみる」のみ収録されているがバンドの映像はない)や、
2000年代前半に行われRCA時代の作品を演奏した
"PERFORMANCE 2002 RCA/AIR YEARS SPECIAL"の
映像は含まれていなかったが、これは意図したものなのか、この時代の
映像が残ってないのかは詳しくは分からない。

上記がほぼズバッと抜けているので、前半の80年代映像と前述した「こぬか雨」が
終わると「煙が目にしみる」を挟んでいきなり2008年の「ずっと一緒さ」に
なるので、結構若い頃と現在でのライブに対する取り組み方の違いが明確になる。

勿論今でも手抜きなく素晴らしい演奏でステージを続けている訳だし
還暦を間近にしてヴォーカルはむしろ近年のほうがより上手くなっているような
印象さえ受けるのだけど、80年代の作品のように、誰かが間違えたらその場で
崩れてしまうような危うさや緊張感は大分収まり、各ミュージシャンにも自由な
フォームをある程度は許可しているのだろうと言う事は想像出来る。

解りやすいところでは椎名和夫から佐橋佳幸に代わったギターの部分で
ミュートのリフでも達郎さんの顔色を伺いながら慎重に一音一音を弾き出していた
椎名和夫のギターと比べると、佐橋佳幸のギターは幾分自由に表現しているように
映るし、実際ライブを観ても弾く時は結構弾きまくるなという印象は有った。
僕は椎名和夫時代のバンドは観れてないので全貌は分からないけど、その位
時間が経って、達郎さんの中でもライブに臨む姿勢って変わってきているのではないかと
そんな風にも思えた。

後はイケメンドラマー小笠原拓海くん。とてもスマートで上手なドラマーだと
思うし、これからも伸びしろが十分ある人だと思うのだけど、やはり青山純、伊藤広規で
気づいてきたグルーヴっていうのは20年にも渡るわけで、その後につくり上げるのは
大変な事だとは思うけど、頑張って欲しい。青山純という人は例えばライブだと
「さよなら夏の日」のようなバラードでもヘヴィなグルーヴをいとも簡単に作り出して
しまう人なので、そこに耳がチューニングされているヤマタツ・ファンとしては
スマートが過ぎてしまうように聴こえるのだけど、その中でも彼が見据えるべき
究極のスタイルはまだまだ先に有るように思えるので、これからだと思う。

しかし、直前のツアーとなった"PERFORMANCE 2011-2012"では大宮ソニックシティでの
公演でかなりテンションが高かったのだなとこの映像を観て思ったりもした。

最後はRising Sunで何十年かぶりにフェスに出た時の「さよなら夏の日」で
遅い夏のプレゼントとして届けてくれたこのシアター・ライブはお終い。

凄く曲に感動して泣いている女性がクローズアップされていたのは・・・何故?
とか思ったけど、ちょうど上映時期的にも良いエンディングでは有ったのかな。

しかし、この上映に行った後も「あぁあの映像観たいなぁ」とふと思う時が有る。
それくらい達郎さんの動く姿、ライブでの雄姿にこれまでありつけないで居たので
それがほんの少しだけ満たされた想いも有るのだろうけど。

達郎さんは、例えば最近別の回で取り上げてる高野寛さんのように、ビジュアルと楽曲
そのものが本人のポップ感を作り出しているというような、そういう感じではなく
本人自身は職人気質の人で、素晴らしい作品のためにこれ見よがしな映像は不要だって
いう考えの人だとは思う。これはどちらが正しいとかではなく考え方なのだけど。

例えばウェラーが全くヴィジュアルに訴えなかったら、そもそもモッズというカルチャー
自体がファッションと音楽を中心としたイデオロギーでも有るので、彼の存在感の
半分も伝わらなくなると思う。

でも達郎さんの場合は本人も音楽で100%伝えるタイプだという自覚も有るだろうから
今までも映像作品という物に重きを置かなかったのだろうと邪推できるし、
実際僕もそれほどの拘りは無かったのだけど、こうやって初めて映像で観る音楽と
相対してみると、そこに満ちていた空気とかそういうのは、凡人には補足しきれない
部分も有る訳で、改めて何故『Joy』があれほど完成度も高く、世間の評価も高いのか
映像も含めて少し分かったような気がしたのである。

そういう意味ではどうかこの貴重な作品もDVD化してくれたらいいのになとは思う。
きっとしてくれないだろうけど。。。

そう思っていたら、何と渋谷でアンコール上映か。。

http://theaters.toei.co.jp/theaters/shibuya1/

さ、最初から渋谷でやってくれれば行き易かったな、何て思ったりして。。
でもこれは良い知らせなので、もう一度観て焼き付けてこようかな。

今回は長い割に散文だったけど、やっぱり達郎さんは素晴らしいということで。
後は『Joy2』のリリースを本当に待望している。

8月下旬に観た高野寛+伊藤大助のライブは仕事の都合で1時間以上遅れてしまったので
9/27に再度高野寛さんのソロライブでリベンジ予定なので、それを観た後また
感想を書こうかと思う。
posted by cafebleu at 15:00| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | 山下達郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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